【11月13日 AFP】ウクライナ東部ドンバス(Donbas)地方のある村で4月下旬、一帯を占領したロシア軍が身元確認のため、家々のドアをたたいて回った。ウォロディミル・ゼレンスキーさん(64)がパスポート(旅券)を見せると、ロシア兵は大声で笑いだし、仲間に向かって叫んだ。「みんな安心しろ、戦争は終わったぞ」「家に帰れる。大統領を確保した!」

 ゼレンスキーさんは旧ソ連時代の1958年、現在のウクライナ東部バフムート(Bakhmut)で、炭鉱と建設業で働く両親の元に生まれた。旧ソ連軍の運転手を務めた後、建設関係の仕事に就き、現在は引退している。

 同姓同名のウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領とは、知る限り血縁関係はない。

 ゼレンスキーさんは2月末以降、砲撃を逃れ、自宅の地下室で大半の時間を過ごしてきた。「4年前にやめたたばこを、また始めた」と話す。

 AFPは10月下旬、ゼレンスキーさんにインタビューをした。安全上の理由から、ゼレンスキーさんが住む村の名前は公開しない。

 妻のバレンティナ・ゼレンスカさん(72)は侵攻が始まると西部に避難した。しかし、ゼレンスキーさんは、20年前に購入した自宅から離れようとしなかった。

 ここは、炭鉱の町で長年過ごした自分が、やっと「最高にきれいな空気」を吸える場所だとゼレンスキーさん。庭で野菜を育てたり、バルコニーでリラックスしたり、近くの池で釣りをしたりもできる。

 9月末にウクライナ軍が村をロシア軍から奪還すると、バレンティナさんは戻ってきた。

 しかし、村は今、ロシア軍から攻撃を受けている。割れた窓に張られたプラスチックシートが砲撃の衝撃で揺れるたび、バレンティナさんはおびえた様子を見せる。「妻はまだ慣れていないんだ」とゼレンスキーさんは言った。