【11月1日 AFP】韓国ソウルの繁華街・梨泰院(Itaewon)で起きた雑踏事故では、ハロウィーンを祝うために集まった人々が折り重なるようにして倒れ、154人が死亡した。当局が事故原因の調査を進める中、国民の間では、警察の警備や群衆整理の不備があった疑いに対する怒りが高まっている。

 今回の事故はどのようにして起き、なぜこれほど多くの人が死亡したのか? これまでに分かっていることをまとめた。

■事故の背景

 1000人を超える集会では通常、主催者が事前に「安全管理計画」を当局に提出し、警察や消防の審査を受けなければならない。だが梨泰院では毎年のハロウィーンに合わせ、バーやクラブ、レストランがそれぞれ独自にイベントを開催しており、決まった主催者はいない。

 警察はリアルタイムでの群衆整理に不備があったことを認めている。韓国警察庁の洪起鉉(Hong Ki-hyun)警備局長は韓国メディアに対し、「現場の警察官たちは、人出が急増したと感じなかった」と説明した。

■死者が増えた理由

 専門家は、適切な準備があれば事故は防げたとしつつも、数年続いた新型コロナウイルス関連の規制により、対応がより困難になっていると指摘した。

 オランダのイベント運営支援企業フェーズ01クラウド・マネジメント(Phase01 Crowd Management)の群衆安全専門家エリック・カント(Eric Kant)氏は「世界中のイベント主催者が、コロナ後の群集に悩まされている」と語る。イベント参加者の多くは大勢が集まる場に慣れておらず、気持ちが非常に高ぶっており、そうした場に潜む危険性について理解していない可能性があるという。

 専門家によると、群衆が殺到する主な要因としては、狭い空間に対する入場制限の欠如や、チケット販売がないため主催者が人出の規模を予測できないことがあり、いずれも梨泰院での状況に当てはまる。

 豪ニューサウスウェールズ大学(University of New South Wales)の群衆安全専門家ミラド・ハガニ(Milad Haghani)氏はAFPに、「これは大規模な集まりでの大惨事につながる」と語った。

 梨泰院のハロウィーンイベントはチケットを必要としないものだったが、それでも当局は混雑の防止に向けた積極的な対応が可能だったかもしれない。

 英サセックス大学(University of Sussex)の群集心理専門家ジョン・ドルリー(John Drury)氏は「当日は少なくとも、人出の規模を監視することができる。また、混雑を防ぐため事前に広報活動を行うこともできる」と指摘。心理学分野の研究では、人がイベント会場で「客観的に危険と言える水準の密集度」を求める傾向にあることが示されており、主催者はこの危険性を認識する必要があると警告した。

■責任の所在

 政府や警察の監督不足を指摘する声が相次いでいるが、今ところ責任の所在は特定されていない。高官たちは政府の責任に関する質問をはねのけ、今は被害者の支援と事故への対応に注力していると述べている。

 地元では警察に批判が集中しているが、専門家は、必ずしも警察に落ち度があったわけではないと指摘している。

 群集シミュレーションに取り組む英ノーサンブリア大学(Northumbria University)のマーティン・エーモス(Martyn Amos)教授はAFPに「警察の主な役割は一般的に、群衆整理ではないことを忘れてはならない」と注意喚起し、群衆整理を主に案内員が行い、警察は秩序の維持や犯罪に対処する形でのイベント開催は可能だと説明した。(c)AFP