■ワグネル創設者に政治的思惑

 ウクライナ側の説明によると、このようなロシア軍の「使い捨て兵士」の大半が戦死する運命にある。中には、負傷したり、拘束されたりする者もいる。

 セルヒーさんはある朝、こうしたロシア兵のうち生存者1人を発見した。セルヒーさんが撮影した動画で、1か月前にワグネルに加わったという傭兵(ようへい)は、仲間もワグネルに採用された元受刑者だと語っていた。

 ロシアは戦線で後退を強いられており、約30万人の徴兵に踏み切ったことで社会の動揺を招いた。専門家は、受刑者を兵士として採用しているのは、ロシアが弱点を露呈し始めたと兆候とみている。

 ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー(Volodymyr Zelensky)大統領は、プリゴジン氏は元受刑者を最大2000人採用した可能性があるとの見方を示している。

 ここで、同氏はなぜ戦略的に重要でもない都市を掌握するのに固執するのだろうかという問いが生じる。

 ウクライナ軍の退役大佐であるセルゲイ・グラブスキー氏はバフムートについて、「ロシア軍は技術的には同市を掌握できる。ただし、近い将来の話ではない」との見方を示した上で、多大なる犠牲を伴うため、割に合わない「ピュロスの勝利」になるだろうと述べた。

 プリゴジン氏には、ロシア軍の将軍よりも頼りになる人物との評を得るという、政治的な利得に対する思惑があるのではないかと専門家は指摘する。

 ウクライナ国立戦略研究所(National Institute for Strategic Studies)のミコラ・ビエリスコフ氏は、「ロシア軍は防戦状態にあるが、プリゴジン氏は攻勢に出ているように振る舞っている。これが同氏の最大の関心事であり、戦いを政治的な影響力、そしてカネに変えるのが目的だ」と分析する。

 プリゴジン氏はケータリング事業を営み、大統領府と契約を結んでいることから「プーチン大統領のシェフ」と呼ばれているが、第53旅団の兵士ネストルさんは、的を射たニックネームだと語る。「1000人、2000人、3000人の兵士を砲弾の餌食にしているのだから」 (c)AFP/Daphne ROUSSEAU