【10月28日 東方新報】中国の「スーツケース3大産地」の一つである浙江省(Zhejiang)平湖市(Pinghu)には約400社のスーツケース製造業者が集まる。新型コロナウイルスの感染拡大による旅行控えで受注数が激減し、古閑古鳥が鳴いていたが、海外からの受注がV字回復して再び活気を取り戻している。

 ただ、世界で最も厳しいコロナ封じ込め策を続けている中国国内では移動制限が続いており、旅行用スーツケースが飛ぶように売れる状況ではない。海外からの受注急増はコロナや旅行をめぐる中国の内と外の温度差を示している。

「注文に製造が追いつかない状況。9月末までに受け取った注文が来年4月末の出荷になりそうだ」。 平湖市のスーツケース製造大手「浙江銀座箱包(Ginza)」の金崇耿(Jin Chonggeng)副社長は中国メディアの取材にこう説明する。

 コロナ禍が始まった2020年には1日にコンテナ1個を出荷できればいい方だったが、現在は毎日5~8個のコンテナを出荷しているという。

 中国軽工業・工芸品輸出入商工会議所の李文峰(Li Wenfeng)副主席によると、浙江省だけでなく、広東省(Guangdong)、福建省(Fujian)、湖南省(Hunan)など主だったスーツケース産地でも海外からの注文が急速に増えている。注文増にともなって工場の人手不足が深刻化したため、高待遇を掲げて労働者を奪い合う状況もみられるようになったという。

 中国商務省によると、今年1~8月の中国のスーツケース輸出額は前年比34.1%増の227億8000万ドル(約3兆3744億円)と急増しており、自動車や靴などと共に中国の輸出回復をけん引している。

「スーツケース輸出急増」は中国にとってグッドニュースのはずだが、旅行に行けない国民には複雑な思いもあるようだ。

「スーツケースの輸出急増は、外国の人たちはあちらこちらに旅行していることを意味しているのではないか。ところで(中国の)みんなは旅行に行っただろうか?」。こんな感想とも皮肉ともつかない感想もネット上に流れる。

 10月1日から7日までの国慶節(建国記念日)の大型連休中、中国屈指の観光名所である世界遺産、九塞溝(Jiuzhaigou)を訪れた観光客はわずか211人だった。九塞溝とは、コロナ前までは国内外から連日大勢の観光客が詰めかけ、環境破壊が懸念されていた景勝地である。

 いつか中国の厳格なコロナ抑止政策が終わり、庶民が旅行に出かけられるようになれば、スーツケースの生産が追いつかなくなるに違いない。世界各地の観光地もアフターコロナのリベンジ消費が中国に及び、中国人観光客がやってくる日が待ち遠しいのではないだろうか。(c)東方新報/AFPBB News