【10月30日 AFP】欧州各地では今、冬を迎えるに当たって電力不足を回避するために節電が呼び掛けられている。だが、スイス南部ティチーノ(Ticino)州にあるバボナ(Bavona)渓谷の住民にうろたえる様子はない。ここは電力網につながったことが一度もないのだ。

 この地域は山頂付近にダムがあり大量の電力を発電しているにもかかわらず、12の集落のうち11の集落が電力網に接続されていない。

 谷底の村チェビオ(Cevio)の元議員ロマーノ・ダド氏は、渓谷に電力を供給するには変圧器が必要で「この土地の住民にはそんな資金がなかったのです」と語る。

 ダド氏によると、約500人いた渓谷の住民は数十年の間に50人を下回るまでになり、その間に暖炉を利用したりソーラーパネルを導入したりするなどして、電力網につながらずに生活するすべを学んだ。ソーラーパネルの導入は、1980年代には既に行われていたという。

 住民のビチェ・トニーニさん(88)は毎年、春から10月までこの谷で暮らしている。自宅に設置したソーラーパネルのおかげだ。現代社会は「電気を無駄遣いし過ぎです」と憂える。

 日が暮れると、夜空の星を邪魔する街灯もないため、素晴らしいショーが楽しめるのだ。

 その一方で、この谷で数少ないレストランのオーナーでライターのマルティーノ・ジョバンネティーナさんは「ソーラーパネルは部分的な解決策でしかないです」と指摘する。

 ジョバンネティーナさんは、電気がないことに加え、古い建造物の修理をめぐる厳格な規制が、この谷の過疎化の原因だとし、近隣の渓谷の村のように観光地として生まれ変わるのではなく、過去がテーマの野外「博物館」と化してしまったと言う。(c)AFP/Agnes PEDRERO