【10月25日 東方新報】中国の若者の間で数年前から、伝統の民族衣装をまとってそぞろ歩きする「漢服」ブームが続いている。コスプレパーティーのような姿を冷ややかに見る市民も少なくないが、最近はモダンデザインと融合して普段着や通勤用にも使える「新漢服」も登場。若い女性らを中心に市民生活に浸透してきている。

 成人の日や卒業式、結婚式に和服を着る日本と比べて中国では伝統衣装を着る文化はほとんど廃れていたが、2010年代から漢服を着る人が増え始め、2018年ごろからブームが本格的に始まった。経済成長が著しい中国で生まれた時から豊かな若者が「国潮(中国風)」カルチャーを好んでいることや、中国でファンタジータッチの時代劇ドラマの大ヒット作品が続いていること、SNSで「映える」ことなどから、急速に広まった。

 漢服は、漢代、唐代、宋代、明代など各時代のデザインがある。丈が長くて襟や裾がヒラヒラとしたタイプの漢服は、仙女の姿や浦島太郎の乙姫様をイメージすると近い。

 漢服は若い女性向けファッションの中で「ロリータファッション」「JK制服(日本の女子高校生の制服を模した服)」と合わせて「流行三坑」と呼ばれるようになっている。「坑」とは「落とし穴」の意味で、お金や時間をいくらでも注ぎ込んでしまうハマった状態を指す。日本で言えば「沼」に当たるだろう。

 漢服の愛好家たちは週末に公園で花見をしたり景色の良い観光地で撮影したりして楽しんでいるが、一般的には「マニア」「オタク」のイメージがある。漢服の知識がない市民からは「それは日本の着物?それとも韓国?」と聞かれることも多いという。漢服市場はアパレル業界の0.8にすぎず、産業としてもニッチな存在だ。

 そんな中、「漢服2.0」とでも言うべき「普段使いの漢服」をコンセプトにした新漢服が次々と登場するようになった。有名な女性インフルエンサー小豆蔻児(Xiaodoukouer)の漢服ブランド「十三余(Shi San Yu)」がその一つ。「初めてクローゼットに迎える漢服」をコンセプトとし、漢服というより漢服の要素を取り入れた洋服のデザインが多い。アクセサリーや靴、バッグ、小物などの国潮グッズも取り扱っている。他にも「通勤用漢服」をうたうなど、多くの新漢服ブランドが誕生している。こうした新漢服は100元(約2037円)程度の商品から3000元(約6万1115円)を超える高級品もあり、「試しに着てみたい」「美しく着こなしたい」などのさまざまなニーズに対応している。中国のZ世代は強い個性を持ち、「自分らしさ」や「自分を喜ばすファッション」へのこだわりを持つ。幅広いデザインがある新漢服はそうした若い世代の心理にマッチしていると言える。中国の流行語に「破圏」という言葉がある。「マニアにだけ好かれているコンテンツがその枠組を突破し、多くの人に浸透する」という意味で、中国メディアは「新漢服は『破圏』の時を迎えている」と報じている。「2022年中国新漢服産業発展白書」によると、2021年の新漢服産業は前年比6.4%増の101億元(約2058億円)。潜在的市場は広く、将来的には1000億元(約2兆372億円)を超える可能性があると見込んでいる。(c)東方新報/AFPBB News