【10月14日 東方新報】中国では今、自転車利用を奨励する「低速交通」の社会整備が進んでいる。

 北京市交通委員会は9月22日、第14次5か年計画(2021~2025年)の期間中、環状道路の五環路内にある幅12メートル以上の道路すべてに自転車専用レーンを設けると発表した。北京市内の一部では既に自転車専用道路を導入。深刻となっている交通渋滞や大気汚染を緩和する効果があることから、市中心部全域に自転車専用レーンを広げる。

 北京市では2019年に、「自転車高速道路」と呼ばれる全長6.5キロの無料の自転車専用車線も開通している。歩行者や電動自転車は進入禁止。信号機は一つもなく、途中にはトイレや空気入れ、自動販売機を備えたサービスエリアがあり、まさに高速道路のよう。「車や地下鉄よりよっぽど早く通勤できる」と喜ぶ会社員も少なくない。自転車専用車線は高架式なので昼は都市の景観を楽しむことができ、夜もライトアップされるため、都会のサイクリングコースとしても人気。1日平均4000~6000人が利用している。こうした自転車専用道路は、山西省(Shanxi)太原市(Taiyuan)や湖北省(Hubei)武漢市(Wuhan)など各地に設置されている。

 中国の都市部では大気汚染が深刻で、市民が「できるだけ外出自体を避ける」という時期もあったが、各地で改善策も進んでいることも背景にある。北京市では最近の10年間で化学工場など3000か所を移転・撤去させ、大規模な植林活動を行っている。

 中国では若者を中心に健康維持の意識が高まっており、サイクリングブームがピークを迎えている。陝西省(Shaanxi)西安市(Xi’an)の王佳翔(Wang Jiaxiang)さんは週末になると市内の観光地を自転車で巡る。「歩くより各地を尋ねることができ、車のように一瞬で通り過ぎることもない。何より、仕事や人間関係のストレス解消になります」。市内の各地にサイクリング愛好家のたまり場スポットがあり、そこで出会う仲間たちとの会話も楽しい。駐輪やトイレの使用がOKで水も無料で提供してくれる「サイクリングフレンドリー」店舗も増えているという。

 中国政府は二酸化炭素(CO2)排出量を2030年までにピークアウトし、2060年までに実質ゼロにする「双炭」目標を打ち出している。北京市交通発展研究所主任工程師の胡瑩(Hu Ying)氏は「車のユーザーが移動手段を自転車に切り替えた場合、1年間で1トンのCO2排出を削減できる」と指摘。官民それぞれのニーズに応じて、「低速交通」社会は今後も広がっていきそうだ。(c)東方新報/AFPBB News