【10月13日 AFP】ロシア軍の砲撃に何か月もさらされ、停電と断水が続くウクライナ東部の前線地域。かつて7万人が暮らし、ワインや岩塩の産地として知られたドネツク(Donetsk)州バフムート(Bakhmut)では、ウクライナ軍が5月から懸命にロシアの侵攻を食い止めている。

 鉄筋の集合住宅は廃虚と化し、並木道は静まり返っている。市中心部を流れるバフムートカ(Bakhmutka)川の橋は、ロシア軍の前進を阻むため落とされた。敵の猛攻が迫る川の東岸では、住民の孤立が深まりつつある。

 西岸の市街地に行くには、砕けたコンクリート片の上に渡された板を渡って濁流を越えなければならない。間近で砲撃が行われる中、人々は年金を受け取ったり、食料や水を調達したりするために川の向こうを目指す。

 だが、オレクサンドラ・ピリペンコさん(67)にとって、西岸は遠過ぎる。肺がんを患う夫のミコラさん(66)は、地下室に避難して砲撃から身を守るのがやっとの病状で、不安定な橋を渡るどころではない。

 教会と隣り合わせの自宅周辺には甘いブドウが食べきれないほど実り、バケツに山と積まれたクルミもある。一方、ジャガイモやタマネギといった日常的な食材は不足し、電気もなければ水道も使えない。しかも、冬と激戦は容赦なく町に忍び寄っている。

「まきを手に入れるにはどうすればいいのか」。オレクサンドラさんはAFP取材班に、ためらいがちに切り出した。窮状を訴えるうち、感極まって涙があふれた。「ここにいても手に入らない。配達してもらうお金がないから」

「3か月間、ガスも電気も来ない。水もない。雨水をためて調理に使っている。それ以外にどうやって水を確保できるというの」

 子どもや孫たちは町を離れて避難したが、2人は身動きが取れずにいる。たとえ戦火を免れたとしても、ミコラさんはこの冬を越せないかもしれない。

 子どもたちからは「覚悟を決めろと言われた」とオレクサンドラさん。「彼らも、他には何も言えなかったのだろう。泣くときは外に出ている。夫に見られないように」

「私たちには何もできない。この爆発音にも、もう耐えられない。いつ終わるの」

 元家具職人のミコラさんは、「砲撃が始まると地下室に駆け込むんだ」と教えてくれた。そんな夫を見つめるオレクサンドラさんの目には、悲しみが満ちていた。「この人はもう、地下室に避難することさえできない」

 質素な家の中は、イコン(聖像画)が幾つも飾られ、まだ暖かかった。だが、爆弾で損傷した屋根から雨漏りしており、じめじめしていた。(c)AFP/Dave CLARK