【10月12日 東方新報】中国の社会では伝統的に口コミが重視される。近年は、「網紅(ネットスター)」と呼ばれるインフルエンサーたちがオススメ商品を紹介するライブ販売が、市民の購買ルートの一つに定着している。その中で最近は「体に良い」という「セレブ塩」がブームに。通常の塩より数十倍から100倍以上の値段が付いているが、効能には疑問の声が上がっている。

 最も人気なセレブ塩が、「ヒマラヤ塩」だ。「ヒマラヤ山脈がまだ海の底にあった数億年前に形成された純粋な塩で、無添加かつ無公害、多くのミネラルを含んでいる」と宣伝されている。通常の食塩価格は400グラムで3元(約61円)程度だが、ヒマラヤ塩は160グラム139元(約2830円)。グラムあたり100倍以上の値段だ。このほかにフランス産グレーソルトは454グラム108元(約2199円)、ハワイの黒塩は425グラム169元(約3441円)。ペルシャの青塩、日本のユズ塩というものも売られている。

 北京栄養士協会副理事長兼事務局長の劉蘭(Liu Lan)さんは「どんな塩であろうと、成分は同じ塩化ナトリウム。『この塩には、人体に必要なミネラルが豊富に含まれている』と宣伝することは、『この塩には、不純物が多く含まれています』と言っているのと同じです」と指摘する。

「中国居住者の食事ガイドライン」は、成人が毎日摂取する食塩を5グラムにすることを推奨している。仮にミネラルが体に良いとしても、数グラムの塩を摂取する程度で人体に良い影響が出るとは考えにくく、むしろ逆効果の恐れがある。統計によると、現在の中国人の平均食塩摂取量は10グラムを超えている。劉蘭さんは「1日の塩分摂取を1グラム減らせば、血圧が1mmHG(水銀柱ミリメートル)下がると言われています。現代人はただでさえ摂取量が多いのに、体に良いと考えてセレブ塩とやらをたくさん使えば健康にマイナスとなるだけです」と警告する。

 中国では市民の所得水準が向上する一方、食生活の乱れや運動不足、ストレスの過多から健康維持の意識も高まっている。ランニングやフィットネスを趣味とする人が急増する一方、健康ブームにあやかった怪しげな商品も目立つように。最近は「疲労回復に効く高濃度酸素水」「赤ちゃん専用ピュアウオーター」などとうたったミネラルウオーターが多く登場し、専門家から「科学的根拠がない」と指摘されている。

 こうした商品に手を出すことは「智商税(IQ税=無知の代価、勉強代)を払う」と揶揄(やゆ)されている。また、こうしたいかがわしいビジネスは「ニラ刈り商法」と呼ばれる。ニラは刈ってもすぐ生えてくる。商品を買った人が「無駄だった」と思って再購入しなくとも、すぐ次の客が現れる、という意味だ。「セレブ塩」ブームも典型的な「ニラ刈り商法」と言え、健康を追い求める市民がIQ税を払う構造となっているようだ。(c)東方新報/AFPBB News