■ゼロ・トレランス

 現在の状況は、胡錦濤(Hu Jintao)前国家主席の比較的寛容な時代とは様変わりしている。

「大学では2015年ごろにLGBTQやジェンダーに関する活動グループがいくつか誕生しました」と語るのは、LGBTQの若者組織の一員、カールさんだ。今は「圧力が強まった」のを感じていると話す。

 2018年ごろには、当時芽生え始めたフェミニズム運動「#MeToo(私も)」も当局に弾圧され、学生活動家数十人が逮捕されるなど、社会運動に対する政府の「ゼロ・トレランス(不寛容)」方針が鮮明になった。

 今年7月、北京の清華大学(Tsinghua University)はレインボーフラッグを配布した学生2人を厳重注意し、インターネット上ではLGBTQの学生団体による多数のソーシャルメディアのページが凍結された。

■敵視される「西側」の価値観

 市民社会の衰退を示すもう一つの前兆は2013年、習政権発足後の党内通達で、立憲民主主義や報道の自由といった「西側」の自由主義的な価値観とされる主張が禁じられたことだ。

 この通達をリークしたとして、2014年から2020年にかけて刑務所や自宅軟禁下で過ごしたジャーナリストの高瑜(Gao Yu)氏(78)は、「1980年代にはこうしたイデオロギーについて議論も出版もできたが、この通達では敵視の対象になった」と指摘する。

「正常な社会では、知識人は政府の誤りを問いただすことができる。そうでなければ…毛沢東(Mao Zedong)時代と同じではないでしょうか」

 清華大学の元政治学教授で党の方針に批判的な呉強(Wu Qiang)氏は「この10年で、中国の知的領域に一種の密告文化がはびこってしまいました」と話す。

「今や学生は議論を交わして学ぶのではなく、教授の一語一句を点検する検閲官のようです」