【10月30日 AFP】馬の群れが海岸で草をはみ、シュモクザメとの遭遇を求めてダイバーが紺碧(ぺき)の海へ潜っていく。日本最西端の島・与那国島は一見どこまでも平穏だ。しかし、中国による大規模な軍事演習が住民の生活を揺り動かしている。

 与那国島は台湾から110キロ。8月の演習で発射された中国のミサイルは、島の海岸線からそう遠くない位置に落下した。

「言葉には出さなくても、感じた恐怖、それはもう大きな打撃となって残っています。みんなピリピリしていますよ」。与那国町漁業協同組合の組合長、嵩西茂則(Shigenori Takenishi)さんはそう語る。

 8月に米国のナンシー・ペロシ(Nancy Pelosi)下院議長が中国政府の警告を無視する形で台湾を訪問し、反発した中国が直後に軍事演習を実施。嵩西さんは組合の漁船に操業の一時自粛を指示した。

 中国の強硬的な態度が国境の島に大きな影響を及ぼすミサイル発射により、それが改めて浮き彫りになった形だ。その危機感は、自衛隊駐屯をめぐる島の議論をも揺り動かしている。

 かつて、島を守るのは駐在所2か所の警官が持つ拳銃2丁だけだと言われていた。

 自衛隊駐屯をめぐる議論は当初住民を分断し、反対の声も上がっていた。しかし2016年以降、与那国島には海上・航空監視の自衛隊が駐屯し、自衛隊員170人とその家族は今や島の人口1700人の15%を占めている。2024年3月までには「電子戦部隊」も配備される予定だ。

「今回の中国の軍事行動を見ていると、なんとかギリギリ間に合ったかな」と、与那国町長の糸数健一(Kenichi Itokazu)氏はAFPの取材に応えた。

「この小さな島々も守る意思がありますよ、だから下手な、よこしまな考えを起こさないでくださいね、そういうメッセージを送ることができたかなと思うんです」