【9月29日 AFP】ロシア第2の都市サンクトペテルブルク(St. Petersburg)の徴兵センターの外では、女性や子どもが、ウクライナ侵攻のために招集された男性たちを抱き締め、その派遣先についてささやき合っていた。

 見送りに訪れた人々の中には、自分の夫や息子、父親が、7か月にわたり続くウクライナ侵攻の最前線に配属されないことを願う人もいた。

 60代の女性は、隣の親族に「これはただの軍事演習よね?」と尋ねた。スベトラーナ・アントノワさん(55)は女性を安心させようと、「そう思う。そう、軍事演習」と答えた。「訓練所に連れて行かれるのだと思う。私には分からない。誰にも分からない。後方部隊に入るのだと思う」

 周辺では、女性たちが金属製の柵越しに予備兵たちと別れのキスをしたり、手を握ったり、最後の言葉を交わしたりしていた。

 アントノワさんの27歳の息子は、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が数十万人規模の予備兵動員を発表してから1週間もたたない27日、徴兵センターに出頭した。動員令が発出されると、首都モスクワでは抗議運動が起こり、国外脱出する男性が相次いだ。

 AFPが訪れたサンクトペテルブルク南部の徴兵センターには、20~40代の男性が招集されていた。

 予備兵のニキータさん(25)は、婚約者のアリーナさん(22)と柵越しに手を握っていた。アリーナさんは婚約者から目を離さず、「何と言っていいのか分からない。ショックで」と涙ながらに吐露。ニキータさんはそんなアリーナさんの髪をなでた。

 ニキータさんが24日に招集令状を受け取ったとき、家族はショックを受けたが、自分自身は「驚かなかった」という。「行かねばならないのなら、行くしかない」

■「逃げ場がなかった」

 ガリーナさん(65)とその家族にとって、従軍経験がある義理の息子(42)の招集は、特に大きな打撃だった。娘はがんを患い化学療法を受けているため、孫のミーシャ君(12)の世話はガリーナさんが担うことになる。

 ガリーナさんはこの日、ミーシャ君を連れて、義理の息子に別れを告げに行った。ガリーナさんは孫の手を握りながら「これからどうやっていけばいいのか分からない」と語った。「どれくらいの期間、どこに連れて行かれるのか、私たちは知らない」

 男性たちが連れて行かれるのは周辺地域の訓練場だと聞かされた家族もいたという。ロシア人の間では国外脱出の動きが相次いでいるが、一家は動員から逃れようとはしなかった。「私たちには逃げ場がなかった」とガリーナさんはAFPに語った。(c)AFP