【9月29日 AFP】ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領が部分的動員令を発表すると、元ロシア軍将校のアレックスさんは車に乗り、フィンランドに向かった。荷物はスーツケース一つだけだ。

「スラブ人の兄弟・姉妹を殺したくない」と、アレックスさんはフィンランドの質素なホテルの部屋でAFPに語った。

「この戦争を支持するロシア人が存在することに吐き気がする」

 アレックスさんは、ロシアに残してきた妻子の身を守るため、身元を完全には明かさないことを条件にAFPの取材に応じた。

「家族は人質だ。もし自分が顔を出せば、投獄されるだろう」と話す。

 ITエンジニアだったアレックスさんは、動員令が発表された翌日の22日にフィンランドに入った。8年間、軍にいて、将校だったことから、真っ先に前線に送られることを危惧したという。

 22日には、サンクトペテルブルク(St. Petersburg)で行われた抗議デモに参加した。そのデモで、自分にとって「すべてが変わった」と話す。参加者があまりにも少なかったからだ。

 ロシアのためにできることは何も残されていないと分かり、この国はじきに崩壊すると確信した。

「私はロシア軍がどういう組織かということを内側から知っている。プーチンは必ず負ける」と指摘する。なぜなら「戦おうとしない奴隷は、一生、誰にも勝てない」からだ。

 アレックスさんは、旧ソ連時代にクリミア(Crimea)半島セバストポリ(Sevastopol)に生まれた。ウクライナとロシアの国籍を有していたが、ロシア軍に入隊するため、ウクライナ国籍は放棄しなければならなかった。

 両親はアレックスさんのことを「裏切り者」だと思っている。母親がロシアの連邦保安局(FSB)に通報しても「驚かない」と話した。

 7月に新型コロナウイルス関連の規制が解除され、フィンランド入国が可能になると、ウクライナからロシアに強制的に退避させられた人の出国を支援するボランティアネットワーク「ルビクス(Rubikus)」に参加した。アレックスさんはこの活動のためにフィンランドの観光ビザを取得した。

 アレックスさんは、これまでロシアからの脱出を手伝ったウクライナ人の話をすると、涙を流した。

「ウクライナは私の祖国だ。ロシアは私の故郷だ。故郷が祖国を殺しているなんて」

 部分的動員令の発表後、フィンランドに入国するロシア人の数が急増したことから、フィンランド政府は23日、ロシア人の入国者数を「大幅に制限」する方針を打ち出した。

 アレックスさんはフィンランド政府の懸念は理解できるとした上で、制限は間違っていると話した。西側諸国は、ウクライナ侵攻の責任をロシア人全員に負わせるべきではないと訴える。「ロシアから国境を越えた人の大半は、人を殺したくなんかない、こんな政府に尽くしたくないと思っている」

 アレックスさんは現在、家族をロシアから出国させようと手を尽くしている。ロシアに二度と住みたくないことは確かだと話した。(c)AFP/Elias HUUHTANEN