【9月30日 AFP】アナワット・ドゥアンダーラーさん(19)は無駄な装備を外したバイクにまたがり、前方を見据えた。コンクリートの路面からかげろうが立ち上る。エンジンをふかすと後輪が激しく回転し、タイヤがきしむ音を残して急発進した。

 タイ・チョンブリ(Chonburi)で今月初め、ドラッグレースが開催された。レース名はNGOストリート・ドラッグレース(NGO Street Drag Race)。人気が高いが危険を伴うバイクレースを、公道ではなくサーキットで行うことを目的としている。

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行) を受け、昨年まで2回中断していた。13回目となる今年のレースには、1500~6万バーツ(約5700~22万8000円)の賞金獲得を目指して競うセミプロチームを見ようと、大勢の観客が集まった。

 アナワットさんはコースを約6秒で疾走する競技距離200メートルのレースに挑んだ。「発進直前は少しも怖くないし興奮もしない。落ち着いていた」と話す。

 これまでにも首都バンコクの路上で何回かレースに参加したことがあり、勝手は分かっている。

 タイでは交通安全に対する認識が甘く、無謀な運転が罰せられることもほとんどないため、交通事故の死亡率が世界で9番目に高い。

 アナワットさんも、公道レースの危険性を認めている。「失敗する可能性は非常に低いが、一回失敗すれば死ぬか障害を負うかのどちらかだ」

「でもサーキット上なら、事故を起こしても単独だし、医療チームが面倒を見てくれる」

 黒いポロシャツとジーンズ姿でレースに参加し、安全のために着用するのはヘルメットのみというアナワットさん。「サーキット上で何回か事故を起こしたことがあるけど、ちょっとした擦り傷で済んだんだ」と語った。

 日が暮れると、数百台のバイクのエンジン音が一つになった。ポップな音楽と冗談交じりの解説がかき消された。

 元レーサーで、現在は整備士として働くサムリット・カムタップティムさん(51)は、自由参加の最終レースがなぜ大事なのかを力説する。

「子どもたちにもスピードへの情熱を発散させてやる場所だ。だから、レース主催者は子どもたちをサーキット上で走らせるんだ」

 出発ゲート付近に排気煙が充満した。数百人の参加者が、最終レースに向け、エンジンを吹かしたためだ。

 てんでにエンジンを全開し、後輪走行などを始めた。サーキットは無秩序状態となった。

 自身のバイクで観客としてやって来たサランユーさん(24)も、この無秩序な最終レースを待っていた。

「このスピード感、バイクそのものが大好きだ。だからここにいる」。バイクに飛び乗ると、爆音を上げて発進していった。(c)AFP/Rose TROUP BUCHANAN