【10月2日 AFP】ルーマニアのジャーナリスト、エミリア・セルカン(Emilia Sercan)氏(46)は、国家トップレベルでの盗用を暴くという使命を自らに課している。

 ブカレスト大学(University of Bucharest)の教授(ジャーナリズム)でもあるセルカン氏は、過去7年間に約50件の盗用を見つけた。閣僚や検察官、裁判官らが、書籍や科学論文、博士論文の執筆に際して規則を破ったことを白日の下にさらしてきた。

 軍出身のニコラエ・チウカ(Nicolae Ciuca)首相(55)が2003年に提出した軍事学の博士論文もその一つだ。138ページ中42ページで盗用があったことを暴き、1月半ばに独立系メディア「プレスワン(PressOne)」で調査結果を公表した。

 セルカン氏はそれ以来、ソーシャルメディアで中傷とヘイトスピーチの標的となっている。

「こんなふうに標的にされたことはこれまで一度もなかった」とセルカン氏。脅迫を受けたとして、警察に2回届け出ている。

 チウカ氏は、当時の学界の規則は順守しているとし、疑惑を否定している。

■信用失墜作戦

 セルカン氏は2019年にも、警察学校の博士論文での盗用を暴いたことで殺害予告を受けた。

 今回は、20年余り前に婚約者に撮影してもらったプライベート写真が盗まれ、流出した。同氏が警察に流出写真のスクリーンショットを提出したところ、その画像はすぐに隣国モルドバのウェブサイトで公開され、74のサイトに転載された。

 セルカン氏は、自身の信用失墜を狙い当局が「中傷情報作戦を仕掛けた」と非難している。

 検察は刑事事件として起訴した。だが、セルカン氏は捜査は進展していないようだとし、「国家のトップレベルが(捜査の)進行を阻んでおり、この件を葬り去ろうとしている」と訴えた。

 検察はAFPの取材に対し、捜査は開始され、継続中だと話した。

 国境なき記者団(RSF)など報道の自由を掲げる10の団体は、セルカン氏に対する「嫌がらせに懸念」を表明するとともに、徹底的な捜査を求めた。

 チウカ氏率いる与党・国民自由党(PNL)は、セルカン氏は盗用を暴露するのに「誤った時を選んだ」と指摘。ロシアが隣国ウクライナに侵攻しているさなかに国内の不安定化を企図していると非難しているという。

 ルーマニアでは、盗用問題の調査に当たる独立機関の廃止が盛り込まれた新教育関連法案も批判を浴びている。同法案では、学術分野における不正行為の告発について3年の期限が設けられた。

 ルーマニアは欧州連合(EU)内で最も腐敗の度合いが高い国の一つとされており、民主化後の社会では、学術分野の不正が一定の地位を占めてきた。

 学術不正問題を専門とするクルージュ大学(University of Cluj)のチプリアン・ミハリ(Ciprian Mihali)教授は、「共産主義体制崩壊後の1990~2000年に大学が急増したこと」が問題の根源にあると語った。博士号の取得が権力の座への鍵となっているという。

「(博士号の)乱発体制とネットワーク」によって「不適格な人材が重要な地位に」就き、批判をものともせず権力の座に居座ることがまかり通っていると指摘した。(c)AFP/Anne BEADE / Ionut IORDACHESCU