【9月12日 AFP】パキスタンのトラック運転手で、7人の子どもがいるムリード・フセインさんは、10月に娘を結婚させようとしていた。しかし、自宅が洪水の被害に遭い、後ろ側の壁だけではなくコツコツためた娘のための持参金「ダウリ」も流されてしまった。

 フセインさんは、4部屋の家に兄弟家族と住んでいる。「娘の持参金は3年近くかけて準備していた」とAFPに語った。

 パキスタンでは6月以降、記録的なモンスーン(雨期)による洪水が全土で発生。これまでに1200人以上が亡くなった。国土のほぼ3分の1が水に漬かり、3300万人の生活に影響が出ている。

 最も影響を受けているのは農村部の貧困層だ。家屋や所持品、これまでにためてきた資産、穀物が押し流された。

 フセインさんが住むパンジャブ(Punjab)州の村もひどい状況になっている。洪水により倒壊したり、破損したりした建物も多い。

 フセインさんの娘ノウシーンさん(25)の結婚も流れてしまった。

 フセインさんは、トラック運転手として稼ぐ月収1万7000パキスタン・ルピー(約1万1000円)から、毎月数千ルピーを娘のダウリ用にためていた。

 家父長制のパキスタンでは、娘が結婚する際に多大な持参金を持たせる習慣がある。多くの地域で、親は娘が生まれたその日から持参金をためることになっている。

 多額の持参金を要求することは法律で禁止されているものの、いまだこの習慣を行っている人は多い。

 新郎の家族は将来の花嫁の家を頻繁に訪れ、家具や家電、衣料品などほしいものが書かれた膨大なリストを渡す。裕福な家庭は、自動車や住宅を要求することさえある。

 リストに挙げられたものを用意できないことは恥だとされ、十分な持参金を渡せない場合には、娘が義理の家族からひどい扱いを受けることも多い。

 フセインさんは「ノウシーンの後に、娘2人と残っている息子1人を結婚させたかった」と語った。「少しずつためればできると思っていた」

 自宅が洪水になると、フセインさんは、妻と子どもたちと一緒に、高台にある近所の駅に避難した。

 一家は2日前、泥をかき分けながら自宅に戻った。家のひどいありさまを見て、妻と娘は泣き出したという。

 フセインさんの妻スグラ・ビービーさんは、家の状態と娘の持参金のことを思うと涙が出てくる。

 長い年月をかけて特注のベッドセット、鏡台、ジューサー、洗濯機、アイロン、シーツ、キルトなどを買い集めてきた。しかし、すべてが洪水で駄目になってしまった。

「汚れてしまった。これを見たらみんな、私たちが娘に中古品を持たせたと思うだろう」とスグラさん。

 結婚は中止になったが、ノウシーンさんは気丈に振る舞っている。

「家族にとって幸せな時となるはずだった、私もとても楽しみにしていた」とノウシーンさんはAFPに語った。

「私のために持参金をためるのがどんなに大変だったか、両親の苦労を目にしてきた。父と母はこれを一からやり直さなければならないなんて」

 フセインさんは「自宅を再建すべきか、小麦をまくべきか、子どもたちを結婚させるべきか? 私たちにとっては、どれもとても重要なことだ」と述べた。(c)AFP/Kaneez FATIMA