【8月30日 AFP】ロシア軍の空爆に連日さらされているウクライナ南部ミコライウ(Mykolaiv)の劇場で25日、戦争が始まってから初となる公演が行われた。観客は地下壕(ごう)を改造した小さな新劇場に案内され、他に類を見ないオープニングナイトを迎えた。

「文化面でも戦うために、この場所が必要だ」と、芸術監督のアルテム・スビストゥン氏(41)。今も市内にとどまる人々には心をむしばむ戦争の恐怖以外の何かが必要で、演劇は「アートセラピー」になると語る。

 欧州の援助基金から助成を受け、2か月かけて地下4メートルにある防空壕を客席35席の劇場に改造した。白い壁には古典劇場を思わせるフレスコ画も描かれた。

 戦略的に重要な港湾都市であるミコライウは、2月24日のロシア侵攻開始以降ほぼ毎日爆撃を受けている。市当局によると、空爆のなかった日はこの半年でたった25日だ。50万人いた人口は、半減した。

 優美な新古典主義建築の劇場建物から300メートルの場所にある市庁舎は、3月29日の空爆でがれきと化し、37人が犠牲となった。先日も三つの大学が爆撃された。ミコライウ州全域では、州当局発表で123か所の文化施設が破壊されている。

 侵攻の影響で、劇場の名称は「ミコライウ・ロシア演劇場(Mykolaiv Russian Drama Theatre)」から「ミコライウ演劇場(Mykolaiv Theatre of Dramatic Arts)」に変更された。

 劇団では団員3人が軍に入隊し、2割が国内外に避難した。

 戦時下ではあるが、上演される演目は愛国的なものに限らない。新シーズンの幕開けを飾ったのは、ウクライナ人の現代劇作家が手掛けた「私たちの欲望の実現」をテーマとした不条理劇だ。

「地下壕劇場」は、毎週木~日曜日に1日2回の公演を行う予定。演劇ファンのオルハさん(55)は、「毎週通いたい。演劇は戦時下の人々に感動と息抜きをくれる」と喜びをあらわにした。(c)AFP/Thibault MARCHAND