【8月25日 AFP】ロシア軍がウクライナ南部ザポリージャ(Zaporizhzhia)州に迫る中、ナタリア・チェルヒクさんは多数の絵画や古い銃器、17世紀の陶磁器などをトラックに積み、西に向かった。

「5日かけ、車で1000キロ移動した。ひどい旅だった。飛行機が頭上を飛んでいたが、ウクライナ軍のものなのか、そうでないかさえ分からなかった」と振り返る。

「一番大変だったのは、荷物を調べられずに、できるだけ早くトラックを通してもらえるように、検問所の人たちを説得することだった」

 チェルヒクさんは、ドニエプル(Dnipro)川に浮かぶ約30平方キロメートルの島全体が博物館になっているホルティツァ(Khortytsia)の学芸員だ。島は16世紀以降、ウクライナ・コサック(Cossack)の拠点となっていた。

 ホルティツァ保護区の責任者マキシム・オスタレンコ氏(51)は、島は「ウクライナ史における聖地だ」と語った。島には発掘調査で見つかった考古学的遺物などが収蔵されており、重要な文化センターとなっている。

■「収蔵品の避難計画」

「クリミア(Crimea)半島が(ロシアに)併合された2014年に、避難計画を実は策定していた」と、オスタレンコ氏。「危険が迫った時に最初に避難させるべき、最も貴重な収蔵品約100点」のリストを学芸員が作成した。

「文化財は作り直すことはできない。事前に対策を講じる必要がある」と話す。

 ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領は2月21日、ウクライナ東部の親ロシア派武装勢力の占領地域の独立を承認、ウクライナ侵攻の恐れが高まった。その2日後の23日、ホルティツァの博物館スタッフは収蔵品の撤去を始めた。

 そして翌24日の侵攻開始と同時に、収蔵品の移送が始まった。

 ロシア軍の進軍はザポリージャから40キロほど離れた場所で止まり、ホルティツァ島が制圧されることはなかった。ロケット弾3発が着弾したが、博物館の施設に被害はなかった。