【8月14日 東方新報】中国の大都市で、夜になると自動車の後部トランクを開け放ってさまざまな商品を売る若者が増えている。趣味と実益を兼ねており、各地で広がっていることから「トランク経済」と呼ばれている。

「憂さ晴らしの雑貨屋さん」「旅するコーヒー店」「人生あきらめバー」「孤独の串焼き屋」――。北京市や杭州市(Hangzhou)、西安市(Xi'an)、広州市(Guangzhou)など各都市の駐車場や広場、大通り沿いなどで、個性的な名前のミニ看板や小さなのぼりを掲げた「トランク店舗」が並ぶ。

 店を開くのは、ほとんどが若者。特にZ世代(1995年から2000年代生まれ)が多い。今年の春以降、コロナ禍で中国各地の店舗が閉鎖された時期に登場し始めた。串焼きやホットドッグ、コーヒー、ワイン、衣服、靴、日用品、本、家具、趣味のグッズなどひと通りのものがそろうため、若者が楽しむ夜のスポットにもなっている。

 若き「店主」たちの顔ぶれは、「夜の副業でやっている」という勤め人や、「自分が作った手芸品を売りたい」という学生、「稼ぎより、同じ趣味の人と交流するのが目的」というマニアなど、タイプはさまざま。「毎週末の夜の数時間、店を開くだけで収入は5000元(約9万9000円)」という報道もあるが、それほどもうける人は少数派。

 中国の格安電気自動車「五菱宏光Mini EV(Wuling Hongguang Mini EV)」を使って焙煎(ばいせん)コーヒーを売る北京市の劉さんは「3万元(約59万円)で買ったコーヒーマシンを使い、1杯22元(約440円)で売っています。もうけじゃなく、コーヒー店を開く夢をかなえたかった」と笑顔で話す。

 ただ、トランク店舗はあくまで無許可営業であり、当局の取り締まり対象にもなる。都市の中心部ほど摘発リスクが高まるため、数か所を移動し続ける人も少なくない。中国のSNS「微信(ウィーチャット、WeChat)」で常連客とつながり、連絡を取り合って販売を続けているケースもある。

 北京国際ビジネスセンター研究所の頼陽(Lai Yang)首席専門員は「トランク店舗は食品の安全性、知的財産権の侵害、道路の占有、納税などの問題を含んでいる」と指摘する。

 最近では、行政側が販売スペースを提供し、審査を受けたトランク店の営業を認めるスタイルも登場。中国政府はコロナ禍以前から夜の消費を促進する「ナイトエコノミー」を奨励しており、副業などの「柔軟な労働スタイル」も提唱している。

「トランク経済」は、社会の活性化と若者の夢を実現する可能性を秘めている。(c)東方新報/AFPBB News