【8月20日 AFP】香港最後のマージャン牌(ぱい)職人の一人、張順景(Cheung Shun-king)さん(70)は、眉間にしわを寄せ、集中しながら牌に文字を彫る。

 香港にはかつて、多くの手彫りマージャン牌職人がいた。だが、機械で作る安価な牌の登場で需要が減り、手彫りは珍しくなってしまった。

 張さん一家は、以前は4店舗を構えていたが、今は1軒しか残っていない。

 張さんは10代の頃から店で修業をし、牌作りに「青春をささげた」と語る。「数年後も仕事を続ける気力があるか分からないが、今のところは続けるつもりだ」

 張さんの店「標記麻雀(Biu Kee Mahjong)」がある通りには、ジャン荘が軒を連ねている。だが、張さんの牌を使っている店は一軒もない。

「うちのマージャン牌は高い」と張さんも認める。

 手彫り牌セットの価格は5500香港ドル(約9万5000円)だが、機械で作られたものは2000香港ドル(約3万4000円)程度だという。

 手作り牌は時間がかかる。機械では1時間もあればすべての牌を作り終えるが、張さんの牌は5日必要だ。

 多くの人は、張さんの牌を記念として購入する。特注品を頼まれることも多い。

 張さんによると、ノスタルジアを抱き、手彫り牌を買いに来る人が増えるようになったのはここ数年のことだ。

「数年後、誰もノスタルジアを感じなくなったらどうなるだろうか?」と問い掛ける。張さんは手彫り牌市場は縮小する一方だと考えている。だが、需要がある限りは作り続けたいと話す。

 若者向けに牌作り講座を開いたこともあったが、手作り牌の未来には悲観的で、弟子は取らない主義だ。

「1、2か月で学べるものではない。2、3年修行漬けにならなければ駄目だ」「もし(修行が終わった頃に)手彫りマージャン牌の人気がなくなっていたら、技術が無駄になってしまう」

 張さんはマージャンのやり方を知らない。関心があるのは牌作りだけだ。

 だが、アーティストと呼ばれることには喜びを感じる。それは「すごい褒め言葉だ」と言う。

「もし芸術だというなら、これは芸術なのだろう。自分にとっては仕事で、生計を立てるためのものだ」

 映像は7月6日撮影。(c)AFP/Anagha Subhash Nair