■マンゴーは指紋と同じ

 カーンさんの大切な原木は、高さ9メートル。頑丈な幹から広がる太い枝が、夏の日差しの中、心地よい木陰をつくっている。

 さまざまな質感と香りのする葉がパッチワークを織りなす。黄色く輝くものもあれば、深緑色のものもある。

「同じ指紋の人がいないように、マンゴーも同じものはない。自然はマンゴーに、人間と同じような特徴を授けた」とカーンさんは述べた。

 カーンさんの接ぎ木の技術は複雑だ。一つの品種の枝に丁寧に切断面を作り、そこに別の品種の枝をつなぎ合わせ、テープで固定する。「接いだ部分がしっかりとくっついたら、テープを外す。うまくいけば、この新しい枝は次のシーズンには準備が整い、2年後に新種が実る」

 カーンさんは何度も賞を獲得している。2008年には、インドで民間人に与えられる最高位の賞を受賞した他、イランやアラブ首長国連邦(UAE)にも招待された。

「私なら、砂漠でだってマンゴーを育てられる」とカーンさんは言った。

■気候変動の脅威

 インドは世界の生産量の半分を占める世界最大のマンゴー生産国。マリハバードには3万ヘクタールを超えるマンゴー園があり、国内生産の25%近くはこの町のものだ。

 しかし、マンゴー農家らは気候変動に直面している。マンゴー生産者団体(AIMGA)によると、今年の熱波で収穫物の9割がダメになってしまった。

 マンゴーの品種自体も減少している。カーンさんは、集約農業化や安価な肥料と殺虫剤が普及したためだと指摘する。生産者がマンゴーの木を密集して植えているため隙間がなく、葉に水分や露が付かないことも一因だという。

 だが、カーンさんはいい人生を送っていると話す。

「最愛の木の近くに住むため、最近マンゴー農園の中の新しい家に移った。死ぬまで働き続けたい」

 映像は6月20日撮影。(c)AFP/Uzair RIZVI