【8月9日 AFP】ブラジル南東部ミナスジェライス(Minas Gerais)州の貧困街で暮らすバロス家のパントリーは、1週間前には空っぽだったが、今では台所に食料品が積み上がり、置き場所に困るほどだ。きっかけは、8人きょうだいの一人であるミゲル君(11)が警察に「食べるものがない」と通報したことだった。

 ミゲル君の母親は3日間、唯一の食料だったコーンミール(トウモロコシの粉)と水を子どもに与えていた。そうした中、ミゲル君は2日、緊急通報用の番号に電話を掛けた。どうしたのかと聞かれると、「お巡りさん、僕の家には食べるものがない」と答えた。

 電話を受けた職員は、ミナスジェライス州ベロオリゾンテ(Belo Horizonte)郊外の貧民街サンタルジア(Santa Luzia)に住む一家の元に警官を派遣。粗末なコンクリート製の家に到着した警察は当初、育児放棄を疑った。だがそこにいたのは、子どもに愛情を注ぎながらも貧困に苦しみ、食料価格の高騰、失業によって家族を養えなくなった母親だった。中南米一の経済を抱えるブラジルでは現在、こうした家庭が増えている。

 警官はスーパーマーケットに向かい、大量の食料品を手にバロス家の元に戻った。中には、一家の事情を聞いた店主が寄付してくれたものもあった。その後、地元の新聞がこの話を取り上げたことによって、ミゲル君は一躍有名となった。

 バロス家には国内外から食料品と寄付金が続々と届き、台所はまるで小さな市場のようになった。ミゲル君は、パントリーを開けて見せると、「いろんな食べ物がありすぎて、どれが何なのか分からない」と笑顔で語った。

■「飢えはつらい」

 母親のセリアさん(46)はシングルマザーで、8人の子どものうち6人と一緒に暮らしている。定職がなく、単発の仕事で食いつないでいたが、新型コロナウイルス流行の影響で仕事がなくなってしまった。

 末っ子の赤ちゃんを抱えながらAFPの取材に応じたセリアさんは、「とても苦しかった。飢えはとてもつらく、一生忘れられない」と説明。「立ち上がることも何もできなくなる。ミゲルは、私が絶望して泣いているのを見て、決心したのだと思う。そのおかげですべてが変わった」

 ブラジルでは、10年前にほぼ根絶された飢餓が再び社会問題となっており、人々はミゲル君の話に心を打たれた。同国は2014年、世界の飢餓状態を示す国連(UN)の「ハンガーマップ(Hunger Map)」から除外されていたが、最新版マップでは人口の28.9%が「中程度から重度の栄養不足」に陥っているとされた。

 最近の調査によると、一日5.50ドル(約740円)未満で暮らす貧困状態にある人の割合は30%で、14年の24%から増加した。10月に総選挙を控えた同国では、極右のジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)現大統領と、有力候補の左派ルイス・イナシオ・ルラ・ダシルバ(Luiz Inacio Lula da Silva)元大統領が、この問題の責任をめぐり互いを非難している。(c)AFP/Douglas Magno, with Joshua Howat Berger in Rio de Janeiro