【8月9日 AFP】オーストリアで先月29日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種反対派から嫌がらせや脅迫の標的とされていた36歳の開業医が、診療所内で自殺した。国内には衝撃と怒りが広がっている。

 首都ウィーンでは今月1日、リーザマリア・ケラマヤー(Lisa-Maria Kellermayr)医師を追悼する集会が開かれ、シュテファン大聖堂(St. Stephen's Cathedral)の鐘が鳴り響く中、大勢がろうそくをともして故人をしのんだ。

 オーストリア国内は、新型コロナ対策の行動規制をめぐり割れている。特に、政府が義務化を発表し、後に取り下げたワクチン接種に関する対立は大きい。

 ケラマヤー医師は、2021年に相次いだロックダウン(都市封鎖)に抗議するデモを批判したことから、殺害予告を繰り返し受けていた。診療所のあるオーバーエスタライヒ(Upper Austria)州は、ワクチン接種率がとりわけ低い。

 同医師は生前、「ここ7か月以上ずっと、コロナ対策やワクチン接種に反対する人たちから殺害の脅迫を受けている」と明かし、患者のふりをして診療所を襲撃すると脅すインターネットユーザーからのメッセージを公開。患者の安全を確保するため、10万ユーロ(約1400万円)以上を投じて対策を講じた結果、破産寸前だとも告白していた。

 そして6月末、診療を当面中止すると発表した。関係者によると、ケラマヤー医師は「診療所の外に出るのを恐れる」ほど追い詰められていた。

■コロナ禍があおった攻撃性

 オーストリア医師会のヨハネス・シュタインハルト(Johannes Steinhart)会長は事件を受け、医療関係者に対する攻撃的な言動は以前からあるものの、COVID-19とワクチンをめぐる議論によって「勢いを増し、明らかに悪化した」と述べた。

 警察は、ケラマヤー医師の保護に全力を尽くしたと主張している。ただ、同医師の生前は、注目を集めるために状況を利用しているとの見方を示していた。

 地元検察当局も、もっと対策を講じるべきだったとの指摘を否定した。

 隣国ドイツ・バイエルン(Bavaria)州の検察当局は5日、ヘイトスピーチ専門の捜査班が59歳の容疑者を取り調べていると発表した。

 オーストリアのアレクサンダー・ファンデアベレン(Alexander Van der Bellen)大統領は事件後、「脅迫と恐怖に終止符を打とう」と国民に呼び掛け、ケラマヤー医師の地元ゼーワルヘン(Seewalchen)を訪れて献花した。