【8月5日 東方新報】ユーザーを互いに奪い合ってきた中国の長編動画配信サービス「愛奇芸(iQIYI)」とショート動画アプリ「抖音(Douyin)」が、手を結んだ。著作権をめぐり対立関係にあった両者の提携は「化敵為友(敵を味方に変えた)」と話題を呼んでいる。

 検索エンジン大手の百度(Baidu)系の「愛奇芸」は豊富な長編動画コンテンツを取りそろえ、「中国版ネットフリックス(Netflix)」と呼ばれている。「抖音」は中国ネット大手の字節跳動(バイトダンス、ByteDance)傘下で、海外では「ティックトック(TikTok)」として有名だ。「愛奇芸」と「抖音」は7月19日に提携を発表。「愛奇芸」が配信権を持つ動画を基にした2次創作動画を、「抖音」で発表することを認めた。動画の編集や切り抜き方法の具体的ルールを定め、知的財産権の保護と活用のモデルを構築するという。

 両者はこれまで視聴者の限られた時間を奪い合う対立関係にあった。特にショート動画アプリは、膨大な費用で制作された長編動画を勝手に短縮やネタバレ解説した2次動画があふれている。長編動画市場は百度傘下の「愛奇芸」と阿里巴巴集団(アリババグループ、Alibaba Group)傘下の「優酷(Youku)」、騰訊(テンセント、Tencent)の「騰訊視頻(テンセントビデオ、Tencent Video)」が3分割している。企業名の頭文字から「BAT」と呼ばれる中国の3大IT企業がそれぞれ、「抖音」などのショート動画に抗議し、提訴もしている。

 しかし、「抖音」は今や1日8億人のアクティブユーザーを擁するアプリとして成長を続け、かたや「愛奇芸」は2019~2021年の3年間で累計234億元(約4606億円)の損失を出している。今年の第1四半期は非米国会計基準(Non-GAAP)ベースで1億6000万元(約31億4923万円)の純利益を達成したが、それでも「百度が愛奇芸の株式売却を検討」というニュースが繰り返し流れる。最近の百度はクラウドサービスや人工知能(AI)などの事業に注力しており、「愛奇芸」に見切りを付けるのではという市場の観測が続いていた。

 それだけに今回の提携劇は驚きの声が上がった。あるIT評論家は「愛奇芸は抖音に『勝てないなら、参加する』方法を選んだ」と説明する。これからは「抖音」のユーザーは著作権侵害の指摘におびえることなく創造力を発揮できるようになり、「愛奇芸」はそれが自社コンテンツの「無料広告」になることを期待している。

「愛奇芸」創設者の龔宇(Gong Yu)CEOは「今回の提携は両者が知的財産権を尊重および保護し、ウィンウィンの関係を模索するための重要なステップだ」と話し、「抖音」の張楠(Zhang Nan)CEOは「前例のない提携は著作権者、クリエーター、ユーザーそれぞれにメリットをもたらす」と意義を語る。

「愛奇芸」は、他の人気動画共有サイトやニュースアプリでも2次創作動画の発表を認める計画という。ネット人口が頭打ちする中、今後も各企業の生き残りをかけた「合従連衡」が続きそうだ。(c)東方新報/AFPBB News