【9月13日 AFPBB News】フェンシングの選手にとって、剣は体の一部のようなものだ。しかし、魂を込めてさばく剣も折れることがある。そうなればごみとして捨てられる。東京五輪の金メダリスト・見延和靖(Kazuyasu Minobe)選手(35)は、そのたびに「切ない」「もったいない」と感じてきた。

 この夏、そんな「折れ剣」が、未来のフェンサーたちに贈られるメダルとして生まれ変わった。

 今年1月、見延選手の発案で「折れ剣再生プロジェクト」が発足。練習や試合中に折れると産業廃棄物として処分されていた剣を再利用する取り組みだ。

 8月13日、見延選手の地元、福井県越前市で開かれたフェンシングの大会で、日本のトップ選手たちが世界と戦ってきた中で折れてしまった剣から作られた12個のメダルが、見延選手自身から子どもたちに手渡された。プロジェクトの第1弾だ。

「世界で戦った剣からできたメダルが手元にあると、子どもたちもより大きな目標や自分が輝く大きな姿を思い描きやすくなると思う。自分の可能性を信じて少しでも大きく高い所を目指してもらえるようなきっかけになったら」と、思いを込めた。

 フェンシングでは剣は消耗品だ。見延選手自身、年間3〜4本は折る。価格は1本2万円から6万円。これまでは練習や試合で折れると廃棄され、再利用されることは無かったという。

 剣は競技成績に直結する大事なギアであり、「自分の手の一部」だと見延選手は言う。しかし、エジプトで7月に行われた世界選手権でも1本折れた。「大事に使っていたいい剣だったので捨てられずに持ち帰った」と明かす。

「魂を込めて使っていた剣。それがごみにしかならない。もったいないという気持ちプラス切ないようなところがある」と見延選手。「どうにかできないものかと当初から思っていた」

 そこで見延選手は、日本スポーツSDGs協会(Japan Sports SDGs Association)の鈴木朋彦(Tomohiko Suzuki)代表に働き掛け、プロジェクトを発足させた。折れ剣を協会が回収し、再生利用する、世界でも類を見ない試みだという。年間150〜200本の回収を見込んでいる。

 今回手渡したメダルは、越前市の金属複合材料メーカー、武生特殊鋼材(Takefu Special Steel)が製作。メダルは剣の根元を延ばし、レーザーで加工した。