【7月30日 AFP】北極圏に位置するその辺境の地には、船かヘリコプターでしか行けない。だが、ミシュランガイド(Michelin Guide)の星を獲得したレストラン「コックス(KOKS)」のシェフ、ポール・アンドリアス・ジスカ(Poul Andrias Ziska)氏(30)は、それだけの旅をする価値のある店でありたいと願っている。

 ジスカ氏は6月半ば、比較的アクセスしやすいデンマークの自治領フェロー諸島(Faroe Islands)で営んでいた店を移転。北緯69度に位置するグリーンランド(Greenland)のイリマナク(Ilimanaq)にやって来た。氷山が迫るこの村の住民は、わずか50人だ。

 席数は20席ほど。クジラや海藻など地元の食材と、気象が過酷なグリーンランドでは入手が非常に難しい新鮮な農産物を合わせた実験的な料理を提供している。

「グリーンランド産のものをできるだけ使うようにしています。カラスガレイやズワイガニ、ジャコウウシ、ライチョウはじめ、多種多様のハーブやベリーなどあらゆるものです」とジスカ氏は説明する。

 ジスカ氏は生まれ育ったフェロー諸島でコックスを開店し、2017年と2019年にミシュランの星を獲得。また世界で最も遠隔地にあるレストランのタイトルを贈られた。

「フェロー諸島にいた時の客は、私たちのレストランで食事をすることを目的に来ていました。観光は二の次なのです」とジスカ氏。

「けれど、ここではグリーンランドに来ること自体が目的で、レストランでの食事は二の次という人が多い」

 これまで、観光地としての知名度は低かったグリーンランドだが、新型コロナウイルス流行前の2019年には、住民の約2倍に当たる10万人の観光客が訪れるようになっていた。

 かねてフェロー諸島よりもさらに北方の地で料理の腕を振るいたいと考えていたというジスカ氏。最終的に選んだのがイリマナクだった。

 いつかはフェロー諸島に戻るつもりと話すが、「その前に全く異なることにチャレンジしてみたい。その方がもっと楽しいはず」と笑顔を見せた。

 映像は6月28日撮影。(c)AFP/Cmille BAS-WOHLERT