【7月27日 CNS】中国でドキュメンタリー監督として有名な千葉県出身の竹内亮(Ryo Takeuchi)監督は2010年、長江(揚子江、Yangtze River)に沿って中国を横断し、NHKのドキュメンタリー番組『長江 天地大紀行(邦題:長江 天と地の大紀行)』で長江沿いの風習や自然の風景を伝えた。ただ当時、竹内監督や日本の視聴者は、長江のスナメリが絶滅の危機にあることまでは知らなかった。

 中国科学院(Chinese Academy of Sciences)水生生物研究所の学者たちは10年前、スナメリの推定個体数はわずか1040頭に減少したという衝撃的な研究を発表した。

 長江のスナメリは太古から生息する中国特有の珍しいイルカ類で、「生きた化石」と言われている。生活環境に敏感なため長江の生態系のバロメーターにもなっている。この数十年間、長江は急速かつ大規模な工業化の影響を受け、「魚がいない」といわれるほど水質は悪化した。

 水中生物の研究に長年携わってきた中国科学院の曹文宣(Cao Wenxuan)氏は「2000年以降、ヨウスコウカワイルカやシロチョウザメなどの国家1級保護動物が集団として次々と絶滅した。本当に悲痛なことです」と話す。

 これ以上の環境の悪化を防ぐため、中国政府は2021年1月1日から、長江での天然漁業を10年間禁止した。その結果、最近はスナメリの集団が川面から飛び出し、獲物を追いかける光景が見られるようになった。長江上流の一級支流である赤水河は、特有魚類が禁漁前の32種から37種に増加し、生息数は1.95倍に増えた。長江沿いの複数の経済地帯で、人と自然の持続可能な開発を達成しつつある。

 10年間の禁漁措置がもたらす成果は、中国全土における生態系改善の「氷山の一角」にすぎない。中国政府は最近の10年間で水や土壌、大気汚染の防止と管理に関する法律13本を制定し、17本の行政規則を策定および改訂した。国立公園の設立や生物多様性の保護、農地から森林への復元、環境モニタリングデータの改善など、生態系保護の取り組みは効果を上げている。青海チベット高原を源流とする長江と黄河沿いに暮らす人びとはこの10年間、中国の変化を目の当たりにし、環境保護の成果を実感している。

 竹内監督は今、再びカメラを手に取り、12年前の足跡をたどるドキュメンタリー『再会長江』を撮影している。長江沿いの人々は自然とどのように調和し共存しているのか、「この10年間の中国の変化を、川を通じて見せたい」と話している。(c)CNS/JCM/AFPBB News