【7月25日 東方新報】日本と中国の比較で、「貯蓄好きの日本人、投資好きの中国人」という言い方がある。中国では堅実に貯金を積み上げるより、手持ち資金の大部分を不動産、残りを株式市場に投資することが一般的だ。怪しげな商法に手を出し、「全財産が一夜でなくなった」と集団抗議行動が起きることもしばしばだ。

 ところが最近は貯蓄志向が強まっている。中国人民銀行(People's Bank of China、中央銀行)によると、今年上半期(1~6月)の市民の人民元建て預金は10兆3300億元(約208兆5606億円)増加した。単純計算で中国の市民は1日平均570億元(約1兆1508億円)の預金をしている。

 中国人民銀行の第2四半期(4~6月)の調査によると、「より多くの消費を好む」と答えた市民は前四半期から0.1ポイント増の23.8%、「より多くの貯蓄を好む」は3.6ポイント増の58.3%、「より多くの投資を好む」は3.7ポイント減の17.9%だった。

 オンライン消費者金融「招聯金融」の董希淼(Dong Xisen)首席研究員は「短期的要因としては、新型コロナウイルス感染症により企業の生産活動が停滞し、市民の間で生活予防策として貯蓄の動機が高まった。不動産市場も政府が調整・コントロールする度合いが強まっている。同時に国際金融市場の動揺により中国でも株式とファンドの収益が減少し、市民の資金が預金に流れた」と指摘する。

 ただ、コロナ禍以前の2018年上半期の市民の預金は4兆2600億元(約86兆85億円)で、この4年間で倍以上に増えている。「消費の中心を担う若者層は、親と子どもの面倒を見なければならない生活の圧力にも直面している」と董氏。一人っ子世代が年老いた両親の面倒を見る時代が本格的に到来している一方、受験戦争が激しい中国では子どもの教育費も高額を要するため、投資のリスクを避けて低金利でも貯蓄を選択する市民が増えている。

 また、市民が欲しい消費財が「一回り」した側面もある。中国情報通信研究院(CAICT)によると、今年1~2月の携帯電話出荷台数は前年同期比22.6%減の4788万6000台にとどまった。「バッテリーの寿命が伸びた」「急速充電」程度のセールスポイントでは消費意欲がわかず、「スマートフォンのイノベーションは終わった」とスマホの買い替えサイクルが長期化している。また、自動車の販売台数は新エネルギー車(NEV)が増加しているが、全体の販売台数は伸び悩んでいる。

 米国が安全保障の観点から一部の中国製品を締め出し、コロナ禍やウクライナの戦争により世界経済が不安定化する中、中国は経済成長のけん引役として内需拡大に力を入れている。それだけに市民の貯蓄志向は決して好ましいものではない。政府や自治体は自動車購入の助成金支給や旅行クーポン券の発行など、消費のてこ入れに躍起となっている。(c)東方新報/AFPBB News