■「向こう見ずな愛」

 夫妻のうち、モーリスのほうが外交的だった。酸性の湖にこぎ出したり、真っ赤な溶岩流をカヤックで下ろうと計画したりと、見るからにスリルを求めていた。ただ、カティアも危機に直面した際には夫と同様勇敢だった。

 危険を恐れぬ夫妻の研究手法には、一部の学者から批判もあった。しかし、「正直なところ、彼らが無謀だったとは思わない」とドーサ監督は語る。「究極的には、2人とも深く意義ある人生を送り、意義ある死を遂げた。愛の追求そのものだった」

「向こう見ずな愛だったと言う人も多いだろう。でも、私たちは、これが2人の生きる道だったのだと感じた」

 クラフト夫妻は、1980年の米北西部セントヘレンズ山(Mount St Helens)の噴火や、その5年後にコロンビアで最大2万5000人が犠牲になったネバドデルルイス(Nevado del Ruiz)火山の惨事を目の当たりにした後、避難計画の改善を各国政府に働きかける活動へと研究方針を転換した。

「それこそ、2人が91年に亡くなったときにやろうとしていたことだ」

■「慰め」

 ドーサ監督は、この映画を通じて2人の活動を現代の観客に知ってもらうだけでなく、地球が単なる「利用価値のある資源」ではないことを人々に思い出してほしいと願っている。

「地球の生命力や感性に関するこうした物語は、搾取に対抗するためにますます重要になる」

 新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)下での映画制作については、「カティアとモーリスが、未知の世界をどう切り抜けるか、恐怖をどう和らげるかを教えてくれた。私たちにとって、またとない慰めとなり、逃げ場となった」と振り返った。

 映画には、赤く輝く溶岩や、まるで地球のものとは思えない火山の風景を、60~70年代フランスで流行した映画運動「ヌーベルバーグ」を思わせる独特のスタイルでとらえた美しい映像が多く登場する。

 夫妻は20冊近い著作でも、ヌーベルバーグを代表するフランソワ・トリュフォー(Francois Truffaut)監督の映画で使われた遊び心あふれるナレーションを連想させる表現を多用していた。ドーサ監督は、このスタイルをドキュメンタリーのナレーションにも取り入れた。

「ヌーベルバーグの優れた物語装置の一つが、三角関係だ」とドーサ監督。「それが適切な手法に思えた。カティアとモーリスの関係には実際、『第三者』が介在しているように感じた。つまり、火山という第三者だ」と語った。(c)AFP/Andrew MARSZAL