本日、私が話したいテーマは「顧みられない人道危機」です。ちょっとあおるような問題を投げ掛けているのですけれども、世界はアフリカやアフリカ人を見捨てているのではないでしょうか。
おそらく世界で今、最も関心を集めている人道危機の一つはウクライナ情勢です。一方、2021年末にUN OCHA(国連人道問題調整事務所)※1が発表した、2022年に最も深刻な人道危機がおそらく起こるであろう10か国のうち、6か国がアフリカ諸国であるわけですけれども、どれだけこれらの国の状況が報道されているでしょうか。
また、2021年に起きた最も深刻な、しかし、顧みられない難民危機は、アフリカ10か国に集中している状況です。近年、武力紛争の発生件数が再び増加し、死者も増加しています。その中で、テロにより最も多くの人が亡くなっている地域がアフリカです。

※1 UN OCHA:国連人道問題調整事務所(United Nations Office for the Coordination of Humanitarian Affairs)。国際緊急人道支援の調整、緊急物資・人員・資金の動員、情報管理、政策策定などを担っている国連の一部局。

本日、私が話をしたいのは、注目されないアフリカにおける人道危機、とりわけテロ、「低強度紛争」の急増がもたらすさまざまな問題です。そしてこれらの問題は、「人間の安全保障」に大きな影響を与えていると同時に、人間が置かれている不安全な安全保障の状態が再び紛争やテロを生み出しているという状況です。
特に注目したいのが、この不安定な紛争や治安の状況下に置かれている子どもたちや青年層で、とりわけ紛争の加害者、あるいは潜在的な加害者になる青年たちに注目していきたいと思います。
UNICEF(国連児童基金)が発表した、紛争による子どもへの影響に関する調査結果によると、死者数、武装勢力や政府軍へのリクルート、拉致・誘拐、人道支援へのアクセスの欠如、レイプなど性暴力、そして、学校や病院への攻撃といった問題が急増している状況になっています。

子ども兵士

UNICEFによると、少なくとも9万3000人以上の子どもが徴募され、兵士として戦場で戦い、軍に従事しています。
子ども兵士は、戦闘や軍に従事している18際未満の子どもです。国際条約では既に、子ども兵士の徴募は禁止されていますが、さまざまな紛争地域に子ども兵士が存在し、残虐な行為に関与していることが確認されています。

子ども兵士とテロとの関係で注目したいのが、「ユース・バルジ理論」です。社会を構成する青年層、特に15歳から25歳が人口に占める割合が高く、これらの人々の失業率や貧困率が高い場合、治安が悪化したり、紛争やテロが発生したりする可能性が高くなるという理論で、特にこうした層が人口の30%を超えると、危険水域に達すると言われています。多くのアフリカ諸国では、25歳未満の人口比率が60%以上を占めています。ユース・バルジ理論には、賛否両論あります。ジェンダーの役割を単純化しているとか、同じ環境下でも紛争やテロの加害者になる人とそうでない人がいるといった指摘があり、それにも一理あると思います。

ただ、強調したいのは、紛争やテロというのは自動的に発生し、継続するものではないということです。「人間の安全保障」が実現されていない不安全な環境が、人間の不安全な環境を再び招くという負の連鎖。それをいかに変えることができるか、ということを考える必要があります。

過激派への加入プロセス ソマリア

私がこれまで調査してきた東アフリカ・ソマリアのイスラム過激派アル・シャバーブのケースを紹介します。アル・シャバーブは2007年、イスラム原理主義勢力「イスラム法廷連合」が解体した後、その中の武装開放路線を主張する過激派グループによって結成されました。その活動の主な目的は、ソマリア連邦政府※2の打倒やイスラム国家の樹立、グローバル・ジハードなどです。

アル・シャバーブへの参加のプロセスを少し見ていきます。参加のプロセスには主に強制的に徴募されるケース、自発的に志願するケース、家族や親せきなどがメンバーで選択肢のないまま参加するグレーゾーン、の三つのケースがあります。特に私たちが重要だと考えるのは、自発的志願のケースです。

どのような要因からアル・シャバーブに自発的に志願したかを分析した調査結果によると、政治・経済的要因、政治家や統治機能の問題、経済的格差、対テロ対策の問題などが挙げられます。

特に多くの人が自発的に志願した要因としては、過激思想の浸透やそうした思想への共鳴、そして現生への絶望を招くこととなった、「人間の安全保障」が実現されていない、個々人が置かれていた非常に不安定な現状がありました。

ケニア政府が行った抑圧的なアル・シャバーブ対策は、過剰な暴力のプロファイリング(犯行などの分析・予測)が明確になされないまま行われ、警察や軍の標的になった青年たちが不満や不平を抱き、そしてアル・シャバーブのメンバーになるといったケースが生まれており、武力的手段や弾圧の限界を示しています。

今後の課題としては、このような青年たちが武装組織のメンバーになるのを予防したり、保護したりすることと共に、リクルートされた人々の社会統合が挙げられます。

動員解除のプロセスとしては、特に重視されているのが、脱過激化のプログラムの実施とか、親族や社会への統合といったものです。しかし、多くの青年たちが親族やコミュニティーに多大な被害をもたらしているので、受け入れられるのが非常に難しいのが現状です。

※2 ソマリア:アフリカ大陸北東端、「アフリカの角(つの)」と呼ばれるソマリ半島に位置する国。1991年にモハメッド・シアド・バーレ政権が崩壊し、内戦状態に陥った後、2005年に暫定政府が樹立。2012年には新議会によってハッサン・シェイク・モハムド大統領が選出されたが、テロが頻発するなど治安情勢は依然、改善していない。

包括的な「人間の安全保障」の実現

紛争やテロの要因は非常に重層的に関わっており、さまざまな要因に対して複合的に対処することが不可欠です。

ただ、青年たちはトラブルメーカーというリスク要因だけを抱えているわけではありません。さまざまな青年たちがピースメーカーとして平和や紛争解決に貢献していることも忘れてはいけないと思います。しかしながら、有効な対策が実現されない場合、紛争やテロが減ることはないでしょう。

根本的に求められるのは、包括的な「人間の安全保障」の実現です。「人間の安全保障」というさまざまな複合的な要因をより私たちの問題として対応することが求められていると考えます。

私の報告は以上です。ありがとうございました。

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【写真左上】2011年2月17日、ソマリアのアルカイダに影響を受けたアル・シェバブグループに忠実なイスラム教徒の戦闘員が、ローワー・シャベル地域の村で軍事訓練を行っている。
(C)MUSTAFA ABDI / AFP


【写真左下】2019年1月15日、ナイロビのホテルとオフィスの複合施設で爆発があり、銃撃戦が繰り広げられる中、人々が避難している。ジハード主義の活動を監視するSITE Intelligence Groupによると、ソマリアのイスラム教組織「アル・シャバブ」が犯行を主張した。
(C)SIMON MAINA / AFP


【写真右】 2008年2月24日、紛争終焉後のウガンダ北部で土地問題で対立する叔父と甥の仲裁をするために集まったコミュニティーの人々とグル県知事。双方の主張やコミュニティーのメンバーの証言を聞きながら、知事は対話による問題解決を試みる。
(c) AKIKO SUGIKI

 
杉木明子 氏
[慶應義塾大学法学部 教授]

2002年英国エセックス大学大学院政治学研究科博士課程修了、政治学博士(Ph.D.)。専門は国際関係論・現代アフリカ政治。これまでに主に、東アフリカ・「アフリカの角」地域における武力紛争、「テロ」、難民・強制移動問題、海上安全保障・海上犯罪に関する調査・研究に従事。主要研究業績として、『国際的難民保護と負担分担』(単著、法律文化社、2018年)、Repatriation, Insecurity, and Peace(共編著、Springer、2020年)、「ケニアにおける難民の『安全保障化』をめぐるパラドクス」(『国際政治』第190号、2018年)、『国際関係のなかの子どもたち』(共著、晃洋書房、2015年)などがある。