【7月16日 AFP】両目を撃たれ、全盲になりながらも、ザイオン・リクスゲインズ(Zion Ricks-Gaines)さん(19)はスケートボードをやめなかった。それどころか、以前よりも情熱を燃やすようになった。

「今もプロを目指しているし、プロスケートボーダーになるという目標を達成したい」。米カリフォルニア州サンフランシスコのスケートパークで、トリックの準備をしながら話した。

「生徒向けの放課後スケートプログラムを増やしていきたい。もし今も目が見えていたら、そうした方向には目が向かなかったはずだ」とザイオンさん。今は会う人すべてと情熱を共有したいと考えている。

 ザイオンさんの人生は昨年暮れ、とあるバーの近くで一変した。友人と一緒に帰宅途中だった彼は、そこで酒に酔った男に銃で撃たれた。浴びたのは2発。1発は右目を破壊し、もう1発が左目の眼窩(がんか)を砕いた結果、穴が開いた眼球はしぼんだ。

 以来、ザイオンさんは暗闇の中で生きている(いわく「星のない紫色の夜空が広がっている感じだ」)。

 事件後には長い入院期間を経て、義眼をはめることになった。しかし普通のものでは満足できず、笑顔を見せる炎という、お気に入りのスケートブランド「スピットファイア(Spitfire)」のロゴを入れた。義眼は好きにつけ外しできる。

 ほどなく彼はスケートパークへ戻り、12歳から続けてきたことを再開した。その時のことについて、ザイオンさんは「スケートボードに乗った時、昔の生活につながれた感覚があった」と振り返り、「肩が軽くなった感じがした」と明かした。

「新しいオブスタクル(障害物)に挑戦するときは、いつもはつえで感じたり、友人に何が見えているかや、どういう形をしていて、何に気をつければいいかを尋ねたりする」のが現在のやり方だ。7年間の経験も役に立ち、必要なことの多くは体が覚えている。「トリックを決めたいときは、集中して転ぶのを怖がらなければできると分かっている」と、ザイオンさんは話す。

 容疑者に対する刑事手続きが行われる中で、ザイオンさんは自分から光を奪った男への憎しみは抱かず、怒りは銃犯罪に向けている。米国では毎年、銃撃事件で多くの人が命を落としている。

「個人的には、銃は必要ないと信じている」と話すザイオンさんは、「柔術などの護身術を学んで犯罪に備え、銃を置くようにすれば、もっといい社会をつくれる」と訴える。

 いつかは子どもを持ち、自らの経験を子どもたちに伝えたいと考えているが、話したいのはネガティブなことではない。

「目が見えなくなったからと、家で悲しみに暮れることもできたが、そんなことをしても何にもならない」

「ただこうして今ここにいられることを、本当に幸運だと感じているんだ」

 映像は5月に取材したもの。(c)AFP/Huw GRIFFITH