■署長も初めて見た留置場

 ロングイェールビーン警察のブレドゥリ署長は自宅玄関の鍵をいつもかけているという。「職業病」と言うが、留置場の鍵はかけたことがなく、AFPのために署内を案内するまで中を見たことすらなかったと話した。

 留置場は、どう見てもほとんど使われていない。使うためには「警官を常駐させる必要がある」が、小さな署にそんな余裕はないという。

 署員は年間130件以上の苦情の調査の他、捜索・救助活動のために24時間体制で待機している。海難救助から山で遭難した観光客の捜索まで、ヘリコプター2機ですべてをこなす。「もしもクルーズ船が沈没したら、1000人の乗客を避難させるのは容易ではありません」

■「NATOのアキレス腱」

 ノルウェー本土と北極の中間点という戦略的位置にあるスバルバル諸島、そしてその主島であるスピッツベルゲン島は、「北大西洋条約機構(NATO)のアキレス腱(けん)」としても知られる。

 ノルウェー領ではあるが、第1次世界大戦(World War I)後の1920年、パリ講和会議で締結されたスバルバル条約に基づき、現在では46か国が同諸島における経済活動や資源利用の権利を有する。その中でも権益の拡大を目指しているのがロシアだ。

 数十年にわたってロシアが炭鉱を操業してきたスピッツベルゲン島のバレンツブルク(Barentsburg)では、ロシアからの出稼ぎ労働者も多い。

 スピッツベルゲン島では2018年、世界最北の銀行強盗事件が起きた。事件を起こしたのはロシア人だった。島で唯一の銀行に押し入り、7万クローネ(約96万円)を強奪したのだ。ただ、逃げ場がなく、すぐに捕まり、実行犯はノルウェー本土で1年余り服役した。それ以来、島の銀行は閉鎖されたままとなっている。(c)AFP/Pierre-Henry DESHAYES