【7月1日 AFP】盗まれたギターを半世紀近く捜し求めていたカナダのロックスター、ランディ・バックマン(Randy Bachman)さん(78)。一人のファンが日本にそのギターがあることを突き止め、ついに再会を果たした。

 バンド「ゲス・フー(The Guess Who)」で「アメリカン・ウーマン(American Woman)」を手掛けたバックマンさんは、大切にしていたオレンジ色のグレッチ(Gretsch)をトロントのホテルで紛失。46年後、そのギターを東京で手にした。

 1日、カナダ大使館でのスペシャルコンサート前に、ステージでそのギターを抱え、チューニングしながら、バックマンさんは「すごい!」と声を上げた。

 バックマンさんはAFPに対し、そのギターが盗難に遭い「打ちひしがれていた」と語った。

「そのギターで、ミリオンセラーをたくさん書いたんだ。魔法のギターだった。それが突然なくなると、魔法はなくなってしまうんだ」

 1960年代初頭、10代のバックマンさんは芝刈りや洗車、ベビーシッターなどでこつこつためた400ドルで、今ではビンテージとなった6120チェット・アトキンス・モデル(Chet Atkins Model)を購入した。

 バックマンさんは長い間この楽器に憧れ、友人でミュージシャン仲間のニール・ヤング(Neil Young)さんと一緒にショーウインドーに飾られたそのギターを何時間も見つめていたという。

 バックマンさんはそのギターをなくさないよう、ツアー中もホテルのトイレにチェーンでつないでおいたという。「バンドの皆にはばかにされたけれど、やっとの思いで手に入れたギターだから、盗まれたくなかったんだ」

 しかし1976年、バンドがチェックアウトする間ギターを預かったスタッフが、他の荷物と一緒に一室にしまったところ、いつの間にかなくなっていたという。

 バックマンさんは何十年にもわたって、木目の中に小さな黒い節があるグレッチを捜し回ったが、良い知らせはなかった。ところが2020年、彼のファンだというウィリアム・ロング(William Long)さん(58)が自宅のカナダから捜索に協力することを決意した。

 ロングさんは、東京のギターショップのウェブサイトで、この特徴を持ったギターを発見。さらに検索すると、バックマンさんのギターを弾いている動画が、ユーチューブ(YouTube)で見つかった。

 ビンテージのグレッチがずっと欲しかったというミュージシャンのTAKESHIさんは、2014年にそのギターを約85万円で購入したという。

 ロングさんからその「発見」を聞いたバックマンさんは、TAKESHIさんと東京で会う約束をし、1957年製の同型のギターと交換することで、彼のギターを譲り受けることになった。

「カナダ・デー」に行われたイベントで、2人は大きなハグをした後、一緒にセッションをし、1970年のヒット曲「アメリカン・ウーマン」を演奏した。

 40年以上もの間、このギターを捜し続け、もう見つからないと諦めていたバックマンさんは、ロングさんの「無私無欲な親切心」に感動したという。

「このギターを弾いている時、ふと見ると、時間が止まっているような、あるいは50年という時間があっという間に過ぎているような気がしたんだ」とバックマンさんは言う。

「こんな脚本なんて書けないよ。誰も信じない。でも、本当なんだ。本当にすばらしい出来事なんだ」 (c)AFP/Katie FORSTER