【7月1日 AFP】ダイアナ・ビラヌエバ(Diana Villanueva)さん(53)は16歳の時、自分をレイプした男に人工妊娠中絶を行っているクリニックに連れて行かれ、中絶手術を受けるよう言われた。米国の中絶クリニックの前でよく見られる反対派のデモは行われておらず、考え直すよう諭してくれる人には出会わなかった。

 だが今、ビラヌエバさんは、あの時誰かに出会えていたらと考える。あの日から中絶のことが頭にこびりついて離れないからだ。

「母が教会に深く関わっていたので、誰かに見られやしないかと怖かった。教会関係者がクリニック前にいるんじゃないかって。一方で、誰かがそこにいてくれればよかったのにとも思う。そうすれば、勇気を出して『こんなことはしたくない』と言えたかもしれないから」

 カトリック教徒のビラヌエバさんは現在、自分のように中絶したことを後悔している女性を支援する活動を故郷のテキサス州エルパソ(El Paso)で行っている。

 聖書に登場する女性ラケルの名を冠したヒーリングプログラム「レイチェルズ・ビンヤード(Rachel's Vineyard)」は、心理学者テレサ・バーク(Theresa Burke)氏が考案し、数十か国で展開されている。聖書の言葉に基づいて「中絶の痛みを癒やす」ための手法だとされる。

「実際問題、中絶はあなたに影響を及ぼす」とビラヌエバさん。「まず、あなたは怒る。当初はとにかく問題を取り除きたいと思うだけで、それ以上のことは考えず、解決策を求める。でも、何もかもが終わった後で、自分が何をしたのか考え込むようになる。そして、自責の念に駆られ始める」

 ビラヌエバさんは教会を通じてレイチェルズ・ビンヤードを見つけた。中絶に対する考え方は、反対派の米国人の多くと同様、宗教の影響を色濃く受けている。

「たくさんの女性が『これは私の体だ、私の選択だ』と言っているが、あなたの体ではない。あなたの体はキリストのものだ」

 キリスト教右派は長年、連邦最高裁判所が女性の人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド(Roe v. Wade)判決」を覆すことを目指してきた。6月24日、その祈りは天に届いた。

■女性の権利

 テキサス州は、積極的に中絶を制限している州の一つだ。昨年施行された州法では、胎児の心拍が確認された後の中絶を禁止している。胎児の心拍は通常妊娠6週ごろから検知できるが、その時期にはまだ妊娠に気付かない女性も多い。

 エルパソにはもはや中絶手術を提供するクリニックは一つもない。だが、隣のニューメキシコ州ははるかにリベラルなので、州境を越えてすぐの小さな町サンタテレサ(Santa Teresa)には、安全で合法的な中絶を望む女性たちがテキサス州各地からやって来る。

 テキサス州法では、女性の中絶を支援した全ての人に法的責任を問える。配車アプリで呼ばれて中絶クリニックまで女性を乗せた運転手でさえも、例外ではない。

 中絶反対を訴えるプログラムやキャンペーンを企画する団体「サウスウエスト・コーリション・フォー・ライフ(Southwest Coalition for Life)」の責任者、マーク・キャバリアー(Mark Cavaliere)氏は、こうした手段を擁護。「中絶手術を行う人々こそ、女性や子どもに対する暴力行為に手を染めている」と非難する。

 人工妊娠中絶の権利を支持するガットマッハー研究所(Guttmacher Institute)の統計によれば、2014年に米国内で中絶した女性の75%が貧困ライン以下の生活を送っているか低所得層に分類された。

 5児の父であるキャバリアー氏は、1973年に連邦最高裁が妊娠中絶を成文化したことで女性の立場が損なわれたと考えている。

「ロー対ウェイド判決は女性に対し、根っから男性規範に基づいた成功の定義を満たすためには、ありのままの体に備わった正常で健康な機能を変更し、抑制し、破壊しなければならないと感じるよう仕向けた」と同氏は主張。「これを覆すことによって、真の問題を実際に解決し、女性の平等や女性の権利の問題を本当に解決できると、私たちは心から期待している」と述べた。(c)AFP/Paula RAMON