【7月31日 AFP】魚釣りを楽しむ平穏な暮らしを求め、リン・チーチェンさん(61)は11年前、台湾の首都・台北から離島の澎湖(Penghu)諸島に移り住んだ。だが、静かに打ち寄せる波の音を破る中国のジェット戦闘機が発するごう音に今では慣れてしまった。

 澎湖諸島の西側にある西嶼(Xiyu)で、ジューススタンドを夫婦で営むリンさんは「(戦闘機が)飛ばない日があると、変な感じがするようになってしまいました」と笑う。

 台湾本土から約50キロ。台湾海峡(Taiwan Strait)に浮かぶこの諸島は、中国による侵攻があれば最前線となり得る。長年にわたって懸念されているその可能性は、ここ数年でかつてなく増大している。

 台湾全体を自国領と主張する中国は、必要ならば武力行使も辞さないと公言している。国際舞台で中国が攻勢的姿勢を強める中、その言葉は現実味を帯び始めている。

 だがのどかな漁村に住む人々の多くは、この軍事的脅威を頻繁に、かつ騒々しく思い知らされているにもかかわらず、楽観的だ。

「緊張が高まっているとみんな言いますが、心配はしていません」とリンさん。「わが国の政府が戦の太鼓をたたくことはないと信じています」

 リンさんの店の通りを先に進むと、客層ががらりと変わる。台湾が独自開発した地対空迎撃ミサイル・防空システム「天弓(Sky Bow)」に基地の兵士らだ。

「基地にもたくさん配達しています」とリンさん。「基地の中にも入ったことがあります。全く普通でしたよ」

「誰も戦争なんてしたくありません。一般市民にとっては現状で十分平和です。権力者たちのすることは、われわれには関係ありません」