【6月27日 AFP】「私たちは自由の国に暮らしているはず。マリフアナ(大麻)が吸える国なのに、妊娠中絶はいまだにどこかタブー視されている」──。高額の医療費と、中絶を考え直すよう求める圧力に直面した米カリフォルニア在住のシングルマザー(31)は、中絶手術を受けるため隣国メキシコの支援団体を頼った。

 米連邦最高裁判所はこのほど、女性の人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド(Roe v. Wade)判決」を覆す判断を下した。中絶の是非は、各州の裁量に委ねられることになったのだ。

 リベラルな風土で知られる西海岸のカリフォルニア、オレゴン、ワシントンの各州は中絶の権利を守ると宣言したが、全米50州のうち半数近くが何らかの形で制限を課すとみられている。

 最高裁の判断以前から、米国内で安全な中絶手段にたどり着くのは「お金がなければ難しかった」と、サンディエゴ(San Diego)のレストランで働くこの母親は、AFPの電話取材に語った。3人の子どもがいる。避妊していたが失敗したという。

 米国内のクリニック2か所に相談したところ、いずれも手術費用が約1000ドル(約13万5000円)かかると言われた。とても払えなかった。一方のクリニックは宗教系で、「産んだ子どもを養子に出すという選択肢もある」と説明され、中絶を思いとどまるよう説得された。

 女性は友人から、サンディエゴの南、メキシコ・ティフアナ(Tijuana)を拠点に活動しているNGO「コレクティバ・ブラディス(Colectiva Bloodys)」のことを教えてもらった。米国で中絶を受けられない女性に無料で支援を提供する、国境を超えたネットワークに参加している団体だ。

「メキシコから支援が差し伸べられたことに驚いた。ここ(米国)のほうがずっとリベラルだと思っていたから」

 NGOの対応はとても速かった。相談してから1日もたたずに回答があり、世界保健機関(WHO)が安全だとして推奨する経口中絶薬が送られてきた。質問にもすぐに返事をくれ、「常に寄り添ってくれた」という。

■対照的なメキシコ

 コレクティバ・ブラディスが参加する支援ネットワークは、約30団体が参加して今年1月に発足した。メキシコの支援活動家は、安全な中絶手段を利用できない米国女性からの関心の高さに驚いている。

 同じくネットワークに参加する団体「ラス・リブレス(Las Libres)」の創設者ベロニカ・クルス(Veronica Cruz)氏によれば、5月時点で女性200人に国境を超えた支援を提供し、医薬品1000セットを送った。

 当初想定していた支援提供対象は主に中南米系の女性だったが、実際にはスペイン語を話さない人からも要請が届いている。

「ほとんどの人が経済的な理由で助けを求めてくる。国境の向こうでは薬代が600ドル(約8万円)もかかり、処方されるのに何週間も待たなくてはならない。私たちは無料で提供している」と、クルス氏は説明する。

 米国とは対照的に、メキシコ最高裁は昨年、人工妊娠中絶を犯罪とみなす法律を違憲と判断した。全土で、中絶は事実上認められている。

 2007年に中絶を合法化した首都メキシコ市は、米最高裁判決を受け、米国女性への支援提供を表明した。

 市保健当局のオリバ・ロペス・アレジャノ(Oliva Lopez Arellano)局長は、「国が権利を認めていたのにそれが後退していくのは全く時代に逆行している。悲しく、言語道断だ。われわれはいつでも支援する」とAFPに語った。(c)AFP/Sofia Miselem