■政治的意思の欠如

 集団埋葬地の調査を行う国立機関「殉教者基金(Martyrs' Foundation)」のデルガム・カメル(Dergham Kamel)氏は、調査は非常に膨大な仕事で、最大の問題は資金だと話した。

 同じような事業を行っている政府機関は2016~21年、「政府から何の資金も受け取っていなかった」という。

 また、首都バグダッドでしかDNA鑑定が行えないなど、システムが中央集権化されていることも問題となっている。

 かつてISが拠点としていたニナワ(Nineveh)州モスル(Mosul)など北部各地には200前後の集団埋葬地が残されているが、調査は遅々として進まない。

 同州の法医学捜査責任者ハッサン・アナジ(Hassan al-Anazi)氏は、ISの犠牲者全員を同州の行方不明者データベースに追加するよう求めているが、実現していない。

「行方不明者は何万人もいる」「毎日30人ほどが、行方不明になっている家族らの新しい情報がないか問い合わせてくる」

 だが、「政治的意思の欠如」から、モスルで最大級とされるハスファ(Khasfa)の集団埋葬地の調査は始まっていないという。兵士や医者、学者らISに殺害された約4000人の遺体が埋められているとされている。

 行方不明者の捜索は、家族にとっては経済問題にもなっている。犠牲者の遺体が見つかるまで、国から補償が受け取れないためだ。ISに殺害された男性の多くは、一家の稼ぎ手だった。(c)AFP/Qassem Al-Kaabi with Laure Al-Khoury in Mosul