■小説のおかげ

 アルバニアの共産主義体制は1990年に崩壊。97年にねずみ講問題を発端とする騒乱が起きると、基地は略奪され、潜水艦も武器やエンジンはおろか乗組員の寝台まではぎ取られてしまった。当局は残っていた4隻の潜水艦のうち3隻を解体し、2009年に金属くずとして売却した。

 1隻だけ解体を免れたのは、文学作品のおかげだ。アルバニアで最も有名な作家イスマイル・カダレ(Ismail Kadare)氏が、ソ連とアルバニアの断交を描いた1973年の小説「大いなる孤独の冬(The Winter of Great Solitude)」に、この潜水艦が「105番艦」という名で登場する。

 小説によって、潜水艦の歴史的評判と文化的意義に象徴的な価値が生まれ、映画化により知名度は確固たるものとなった。艦体には、映画化の際に描かれた105という数字が今も残る。

 文化省は潜水艦の復元を何年も前から約束していた。国防省に移管した上で、今後建設する「冷戦博物館」の所蔵品とする案をAFPに明らかにした。

■潜水艦トンネル

 アルバニアは共産主義体制が倒れた後、北大西洋条約機構(NATO)に加盟し、欧州連合(EU)にも加盟申請を行った。

 サブリ・ジノラリ(Sabri Gjinollari)艦隊司令官は、パシャリマン基地について、「古代から地政学的に非常に重要な位置を占めている。アドリア海だけでなく地中海の海上交通全てを統制できる」と指摘する。

 近くのポルトパレルモ(Porto Palermo)の基地には、核攻撃に耐え得る潜水艦バンカーとして1960年代後半に岩盤を掘って建設された巨大なトンネルがある。中国のミサイル艦が配備される予定だったが、ホッジャは78年に中国政府とも関係を断ったため実現しなかった。

 現在は使用されていないトンネルの老朽化した壁に描かれた大きな赤い星が、共産主義時代の唯一の面影だ。

 アルバニアの海岸線で最も美しい地域の一つにあるトンネルも、博物館にしてほしいとの声がある。

 だが、シュケルキム・シタイ(Shkelqim Shytaj)司令官は反対だ。「能力に制限がかかるとしても、軍が使用したいと考える」 (c)AFP/Briseida MEMA