【6月6日 AFP】バルカン半島南西部アルバニアの激動の共産主義時代を今に伝えるソビエト連邦の潜水艦。さびつき、半ば水没している。アドリア海(Adriatic Sea)に面したパシャリマン(Pashaliman)海軍基地で、退役軍曹のネイム・シェハイ(Neim Shehaj)さん(63)は、政府が扱いを決めあぐねる中、艦の修理に明け暮れる毎日を送る。

 今すぐ海から引き揚げなければ、「その歴史ともども海底に沈んでしまう恐れがある」と警告する。「この潜水艦は私にとって教会みたいなものだ。若い頃に水兵として着任し、今は白髪になった」と話すシェハイさん。潜水艦に約30年乗務した。

 冷戦(Cold War)時代、ソ連はパシャリマン基地を拠点に地中海の支配をもくろんだ。全長76メートルのこの潜水艦は、第2次世界大戦(World War II)後にソ連が建造し、1950年代後半に緊密な同盟関係にあったアルバニアに配備した613型潜水艦12隻のうちの最後の1隻だ。

 元潜水艦艦長のヤク・ジェルジ(Jak Gjergji)さん(87)は、ソ連の最高指導者ニキータ・フルシチョフ(Nikita Khrushchev)が1959年に基地を訪れた際、「ここからジブラルタル(Gibraltar)まで地中海を支配できる」と語ったことを覚えている。フルシチョフはパシャリマン基地に長距離ミサイルや軍艦を配備し、空港を建設したいと考えていた。

■引き裂かれたソ連国旗

 しかし、厳格な共産主義に固執するアルバニアの独裁者エンベル・ホッジャ(Enver Hoxha)は、真のマルクス主義から逸脱しているとして、ソ連政府を非難。1961年にソ連と断交する。

 ジェルジさんによるとパシャリマン基地では、両国の潜水艦乗組員たちが互いに口を利かなくなり、もめ事が頻発するようになった。「ロシア人水兵が掲げようとした鎌と槌(つち)の赤旗を、怒ったアルバニアの水兵が引き裂く出来事もあった」

 ソ連は断交後、潜水艦8隻をアルバニアから引き揚げた。