【6月13日 AFPBB News】東日本大震災と東京電力(TEPCO)福島第1原発事故から11年。記憶は風化し、関心も低下しつつある。そうした中、「福島の今と未来を伝えよう」と、全国から学生が集まった。復興の現状や福島県が抱える課題を見詰め直し、次世代の視点から情報を発信することを目的とした、実際に福島を訪ね見学するツアーを考えるプロジェクトだ。
 
 東京・霞が関で5月28日、福島の環境再生について考えるプロジェクトの第1回会合となる「次世代会議」が開催された。福島の高校生や全国の大学生23人が参加。

「福島、その先の環境へ。」と題された会議では、「環境再生と地域・まちづくり」「環境再生と脱炭素」などのテーマごとに学生がグループをつくり、議論をスタートさせた。

 学生が考えたツアーは、8、9月に一般の方も参加した形で実施される。東日本大震災・原子力災害伝承館や、除染により発生した土(除去土壌)が保管される中間貯蔵施設などを見学し、地元の人たちから直接話を聞いたり、体験学習を行ったりする。現地で得た情報は、SNSなどを通じて幅広い世代に伝える予定だ。

環境省で行われた「福島、その先の環境へ。」次世代会議の様子(2022年5月28日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi
 

SNSを活用


 会議は環境省の呼び掛けで開催された。環境再生・資源循環局の水橋正典(Masanori Mizuhashi)参事官補佐は、中間貯蔵施設の現状や除去土壌の「再生利用」について報告する一方で、福島への関心が薄れている懸念を指摘した。

 その上で「福島の現状や福島の抱えている課題だけでなく、福島の魅力を発信していただきたい」と、若い世代が情報を発信する今回のプロジェクトに期待を示した。

 これまで福島を訪れたことがないという早稲田大学1年の吉崎萌さんは、復興に加えて、未来に光を当てるプロジェクトの趣旨に興味を持って参加を決めた。

「現状を知るとか、過去を知るとかだけではなく、今後どうしていくのかというのをぜひ考えていきたい」と吉崎さん。

 福島を訪れた後、SNSを通じて同世代をターゲットに発信するつもりだ。「周りにもインフルエンサーみたいな人がいる。若い人でも大きな影響力を持つことはできると思うから、そういった点でSNSの活用というのを考えて福島を発信していきたい」

 今回参加した中国からの留学生は、海外でも福島のネガティブなイメージがまだ払拭されていないとし、プロジェクトを通じて風評被害を減らす方法を考えたいと言った。

 福島から参加した高校2年の小野健太郎さんは、復興のプロセスを多くの人に伝えたいと意気込む。

「復興と言われるところを、その過程も含めてみんなに知ってもらいたい、発信していきたい、とは常々思っている」。会議では、大学生と共に、具体的な発信方法も話し合った。

環境省で行われた「福島、その先の環境へ。」次世代会議の様子(2022年5月28日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi
 

現地を見ることが重要


 2011年3月11日の三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震と、それに伴う大津波を受け、福島第1原発では水素爆発により原子炉建屋などが破損し、放射性物質が拡散。県内の広範囲にわたり住民は避難を余儀なくされ、表土の剥ぎ取りといった大規模な除染作業が行われた。

 被災地では社会インフラの復興が進む一方、住民の帰還など課題も残っている。その一つが、除去土壌の問題だ。現在は、県内の中間貯蔵施設で保管されており、2045年までに県外での最終処分を完了することが法律で定められている。しかし、受け入れ先はまだ決まっていない。

「一人でも多くの方に、福島の環境再生においては、こういう課題があることを知ってもらいたい」と、環境省の水橋氏は訴える。

 会議のアドバイザーとして参加した、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の万福裕造(Yuzo Mampuku)上級研究員は、現地に足を運ぶことの重要性を指摘する。

 福島の再生について大学で講義を行っている万福氏は、現地に学生を招いてワークショップを開いている。「現地を見た学生と、ウェブで講義を聴いた学生とでは、理解度が全然違う。中間貯蔵施設を見ると『こんなに広大だったの』と言う。あれは見ないと分からない」と話した。
 

環境省で行われた「福島、その先の環境へ。」次世代会議の様子(2022年5月28日撮影)。(c)AFPBB News/Yoko Akiyoshi
 

除去土壌を「再生利用」


 中間貯蔵施設は大熊町と双葉町にまたがって設置され、1300を超える県内の仮置場から除去土壌が集められている。

 2015年3月から、除染で回収した除去土壌の搬入が始まった。累積搬入量は2022年4月末時点で1300万立方メートル。東京ドーム約11杯分に相当する。

 帰還困難区域以外の除去土壌の搬入は2021年度までにおおむね完了という目標を達成。2022年度は、帰還困難区域の特定復興再生拠点で発生する除去土壌などを中心に搬入が行われる。

 国や県は除去土壌の県外への搬出を実現させる一方、処分量自体を減らそうと、除去土壌の「減容(熱処理などを行って量を減らすこと)」や再生利用を推進している。

 飯舘村長泥地区では、除去土壌を再生利用するための実証事業が行われている。区内には再生資材化処理施設が設置され、除去土壌が活用されている。

 村内の仮置場から運ばれた除去土壌のうち、放射能濃度の低い除去土壌を農地のかさ上げ材として使用。さらに、その上を土で覆い、野菜や花を栽培している。収穫された作物の放射性セシウム濃度は0.1〜2.3ベクレルで、厚生労働省の基準値を大きく下回っている。

「最終処分、再生利用というのは福島だけの問題ではなくて、国民全体として考えていかなければならない問題だ」と、水橋氏は強調する。

住宅の庭の除染を行う作業者(2016年3月撮影、提供写真)。(c)環境省

「再エネ先駆けの地」


 環境再生の取り組みが進む一方、震災以前から首都圏へのエネルギー供給拠点だった福島。現在、「再生可能エネルギー先駆けの地」として、研究拠点の整備や関連産業の集積が加速している。

 県は2040年ごろをめどに、県内エネルギー需要の100%相当量を再生可能エネルギーで賄うことを目標にしている。2020年度の県内エネルギー需要に占める再生可能エネルギーの割合は43.4%で、中間目標としていた40%を上回った。

 原発事故で全町避難となった浪江町では、世界最大級の水素製造施設「福島水素エネルギー研究フィールド(FH2R)」が開業。町は、水素で走る燃料電池自動車(FCV)を公用車に導入するなど、「水素社会実現の先駆けとなるまちづくり」に取り組んでいる。

 高校生の小野さんは、福島のクリーンエネルギーへの取り組みも全国に紹介したいと語る。「復興に加えて、再生可能エネルギーの技術や開発の進捗(しんちょく)というところを重点的に見てもらいたいと思った」
 

「光も影も」


 福島県観光物産交流協会の八巻久美(Kumi Yamaki)氏は、プロジェクトを通じて、震災を知らない世代に「ありのままの福島」を見てほしいと話す。「皆さん、震災の記憶がうっすらとあるくらい。そういう意味でも、まずはシンプルに知ってもらいたい」

 会議のアドバイザーを務めた八巻氏は、福島のために何ができるかを考える段階は終わったと指摘。福島を訪れた経験を、参加者の今後の人生や選択にどう生かすかという段階にきていると語った。

「正解のない課題がたくさんある。光も影も両方ご覧になって、これからどうしていけばいいのかを考えてほしいと思う」

福島県双葉町にある東日本大震災・原子力災害伝承館で、震災から10年を迎えるにあたり灯されたキャンドル(2021年3月10日撮影)。(c)Kazuhiro NOGI / AFP

 今夏の現地見学会では、伝承館や中間貯蔵施設のほか、特定廃棄物の情報発信施設「リプルンふくしま」、福島再生可能エネルギー研究所、除去土壌の再生利用実証事業が行われている長泥地区などへの訪問が計画されている。

 参加した学生からは、イチゴ栽培施設、魚介類市場、ワイン用ブドウが栽培されている農園など、食にまつわる場所も見学したいと候補にあげていた。

「環境再生と観光」をテーマに選んだグループは、「海の福めぐり」と称して魚にまつわる場所をめぐり、福島産の魚介類の安全性をアピールする計画だ。「実際に魚屋さんを経営されている方の魚に対する思いを語ってもらい、福島の海の『福』をみんなで堪能していけたらいいなと思っています」と、メンバーは語った。

 福島訪問後、参加者は議論をさらに重ね、来年3月の環境省主催のシンポジウムでプロジェクトの成果を報告する予定だ。(c)AFPBB News

環境省で行われた「福島、その先の環境へ。」次世代会議の参加者ら(2022年5月28日撮影)。(c)環境省
 

この記事は環境省の協力により配信をしています。