【5月29日 AFP】国連(UN)のミチェル・バチェレ(Michelle Bachelet)人権高等弁務官は28日、物議を醸している新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)訪問について「調査ではなかった」と説明した。中国当局に対しては「恣意(しい)的で無差別な」取り締まりを回避するよう求めた。

 国連人権高等弁務官の訪中は17年ぶり。中国の馬朝旭(Ma Zhaoxu)外務次官は「前向きで具体的な成果」があったと主張した。これに対し、人権活動家やNGOは、バチェレ氏の発言は中国にプロパガンダ上の大きな勝利をもたらしたと反発している。

 中国は、ウイグル自治区でウイグル人を中心とするイスラム教少数民族100万人以上を拘束し、強制不妊手術を施したり、強制労働をさせたりしているとされる。米国は、中国当局の行為を「ジェノサイド(集団殺害)」や「人道に対する罪」に当たると非難。しかし中国政府は疑惑を強く否定し、治安当局による取り締まりは過激派への必要な対応だと反論している。

 そうした中、今週訪中したバチェレ氏は、かねて計画していたウイグル自治区訪問を実現。日程最終日のこの日、中国国内で記者会見し、中国当局や市民団体、学者と「率直」に話す機会を得たと述べた。

 中国政府に対しては、新疆での取り締まりにおいて「恣意的で無差別な手段」を用いないよう強く求めた。同時に「過激主義に基づく暴力行為」により被害がもたらされていることも認識していると語った。

 その上で「今回の訪問は調査ではない」と強調。新疆では、国連が手配した面会相手に「当局の監視を受けずに」会えたと説明した。

 バチェレ氏は、自治区の区都ウルムチ(Urumqi)とカシュガル(Kashgar)で刑務所やかつての再教育施設、観光地のカシュガル旧市街、テロ対策の展示施設、綿花畑などを視察。カシュガル刑務所では受刑者に面会し、控訴審が行われる刑務所内の法廷も見学したとし、「非常に開放的で透明性が保たれた」視察だったと評した。

 人権団体から強制再教育施設だと指摘されていた「職業訓練施設」について、自治区政府はバチェレ氏に対し「解体された」と語ったという。ただ、同氏としては「全面的な評価はできなかった」と述べた。

 中国政府は2019年、「職業訓練施設」から全訓練生が卒業したと発表した。これに対し人権団体は、収容者の多くが工場に移されて強制労働をさせられたり、自治区内の他の刑務所に再収容されたりしているとの見方を示している。

 バチェレ氏は記者会見で、自治区内の人権侵害に関する国連報告書の公表が遅れていることについては言及しなかった。

 記者会見を受け、バチェレ氏を批判する声が相次いだ。

 亡命ウイグル人組織「世界ウイグル会議(WUC)」の広報担当者ディルシャット・ラシット(Dilxat Raxit)氏は「国連人権理事会(Human Rights Council)のためにバチェレ氏が唯一できる意味ある行動は、辞任することだ」と主張。米国在住のウイグル人活動家ライハン・アサット(Rayhan Asat)氏は「完全な裏切りだ」とツイッター(Twitter)に投稿した。

 国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)のアニェス・カラマール(Agnes Callamard)事務総長は「国連人権高等弁務官の訪問に関しては、政府高官との写真撮影や中国国営メディアによる発言の操作が特徴的だ。容易に予想できたにもかかわらず中国政府のプロパガンダにまんまとはまってしまった印象がある」とする声明を発表した。(c)AFP/Laurie CHEN, Aidan JONES