■宇宙でもカーボンニュートラル

 日本人初となる船外活動を行った土井氏は、「宇宙から見る地球は本当に素晴らしく美しい惑星。地球の環境をこれ以上破壊してはいけない」と言う。

 土井氏は1997年、スペースシャトル「コロンビア(Columbia)」に搭乗し、船外活動を2回実施。2008年には、スペースシャトル「エンデバー(Endeavor)」に搭乗し、きぼうの船内保管室をISSに取り付けた。

「宇宙に行くことで地球環境を破壊してしまったら元も子もない。私たちが宇宙に行くためにも、地球環境を破壊しない手段を使うべきだ」と、力を込めた。

「今、世界中でカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出を実質ゼロにすること)が叫ばれているが、それは宇宙産業においてもまったくその通り。人工衛星を作るときにもカーボンニュートラルは守らなければならない」

 フィンランドの製材会社、ウィサウッドサット(WISA Woodsat)が欧州宇宙機関(ESA)と共同で木造人工衛星の開発に着手するなど、木造衛星は海外でも注目され始めている。

 先行する土井氏の研究チームは、実用化に向けて2号機の設計案に着手した。「2030年までには、木造人工衛星が一般的な活動であると認められるようにできればと思っている」と、今後を見据える。

■次世代に託す思い

 研究チームはさらに、宇宙空間や惑星における木造建造物の研究も視野に入れている。「宇宙で木が使えることが証明されれば、月面基地や火星基地など、宇宙で木造建造物を造りたい」と土井氏は話す。

 現在は、火星の疑似環境における樹木の育成実験を実施している。

 火星の気圧は地球の100分の1。約2年間の実験の結果、0.1気圧の下で樹木が育つことが分かった。次は、0.01気圧でも育成できる条件を探す。「宇宙ステーションも木で造れるだろう」と夢は膨らむ。

 土井氏は、研究チームの課題を次世代に伝え、日本の宇宙産業を発展させるためには、人材育成が欠かせないと言う。京大では有人宇宙学に関する新しいコースを設け、土井氏が講義や実習を担当している。

「米国ではスペースXやブルーオリジン(Blue Origin)のような民間企業が宇宙産業に参入しているが、日本の宇宙産業は米国の10分の1以下だ」と土井氏は指摘する。

 米衛星産業協会(Satellite Industry Association)によると、2020年の世界の宇宙産業の市場規模は約3710億ドル(約49兆6000億円)。日本は2030年代初めまでに、国内市場規模を現在の約2倍の2兆4000億円にすることを目指しているが、競争力では欧米に大きく水をあけられている。

「一番大きな問題は、若い人たちが宇宙で活躍する、そういう時代に入ってきていない(ことだ)。宇宙で活躍する人材を育成する大学教育が、日本では遅れている。それを破りたい」と、土井氏は語った。(c)AFPBB News/Marie SAKONJU/Shingo ITO