【6月11日 AFPBB News】地球上で人間の営みを支えてきた木は、宇宙でも必ず役に立つはず──。宇宙飛行士で、現在、京都大学(Kyoto University)特定教授を務める土井隆雄(Takao Doi)氏(67)は、そう確信している。その第一歩として挑むのは、世界初となる「木造人工衛星」の打ち上げだ。

 2020年、土井氏は京大と住友林業(Sumitomo Forestry)による共同プロジェクトを立ち上げた。構造体の外側表面が木製の人工衛星「LignoSat(リグノサット)」1号機を2023年度に打ち上げる準備を進めている。各辺10センチの立方体で、キューブサット(CubeSat)と呼ばれる小型人工衛星だ。

 研究チームは今年3月から、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう(Kibo)」の船外実験プラットホームで、世界初となる木材の曝露(ばくろ)実験を開始。来年初めに実験サンプルを地上に戻し、宇宙放射線や紫外線といった宇宙特有の環境下での変化について解析する。

「木は人間の進化にとって大切な存在だった。私たちが宇宙に行くときに、木は重要な役割を果たす」と、土井氏はインタビューに答えた。

 土井氏が代表を務める研究チームの目的は「宇宙で木材の利用を探求すること」。最初のプロジェクトとして選んだのが、木造人工衛星の開発と運用だ。

■真空に強い木材

 人工衛星の素材はアルミニウムが主流で、木で代用するのは世界初の試みだ。米航空宇宙局(NASA)が1960年代、月面探査機「レインジャー(Ranger)」にバルサ材を衝撃緩和材として使用したことがある。ただ、木材は金属と違って性質が一様ではないことから、現在、NASAの宇宙用部品ハンドブックに木の項目はないという。

 しかし、地上で真空装置の中に木材を3年間入れて経過を調べる実験を行ったところ、寸法や形状、剛性にほとんど変化がなく、木材は真空に強い材料であることが分かってきた。

 リグノサット1号機は運用期間が1年なので、耐久性について問題はない、と土井氏は自信を示す。曝露実験の試料にはホオノキ、ヤマザクラ、ダケカンバが選ばれた。しかし人工衛星に採用される樹種は、まだ決まっていない。

 電磁波や磁気波は木材を透過する。そのため、木造衛星はアンテナや姿勢制御装置を内部に設置でき、構造を簡素化できる。しかも、木材は国内外で容易に入手できる上、特殊な加工技術を必要としないため、価格も抑えられる。

 さらに、大気を汚染しない利点があると、土井氏は話す。木造衛星は運用を終えると、地球の大気圏に突入し、完全に燃え尽きるからだ。

 それに対し、アルミは大気圏突入時、大気との摩擦で燃焼し、酸化金属粒子(アルミナ粒子)が生じる。粒子の大きさは数ミクロンと微小で、数十年にわたって大気中を浮遊する。

 人工衛星の打ち上げ回数が現在の1万倍に達すると、運用が終わった衛星の大気圏突入に伴って発生する粒子の密度も上がり、太陽光を反射し始める。その結果、地球に届く太陽光が減り、地球の寒冷化をもたらすと土井氏は指摘する。

 2020年に軌道に投入された衛星は約1200基だが、インターネット用の小型衛星を活用したビジネスは進展を見せ、打ち上げ回数は増加している。米宇宙企業スペースX(Space X)など民間各社は、多数のインターネット用通信衛星を打ち上げる予定で、それを合わせると衛星の数は数千から数万基近くになるとする試算もある。

 粒子は赤道に近い大気層に多く浮遊するため、大気光のバランスが崩れ、気流が大きく変わる。ひいては台風や嵐などの大きな気象変化を引き起こす恐れがある。