【5月27日 AFP】仏パリのルーブル美術館(Louvre Museum)のジャンリュック・マルティネズ(Jean-Luc Martinez)前館長が25日、民主化運動「アラブの春」の混乱に乗じエジプトで略奪されたとみられる考古学的遺物の来歴の隠蔽(いんぺい)を共謀したとして、予審判事による事件捜査が開始された。仏司法筋が26日、明らかにした。

 別の捜査筋はAFPに対し、マルティネズ前館長はエジプト美術専門家2人と共に事情聴取を受けていたと話した。専門家2人の捜査は行われていない。

 国立美術館のルーブルの入場者数は世界最多で、新型コロナウイルスの流行前は年間1000万人が訪れていた。

 ルーブルはAFPの取材に対し、コメントを差し控えた。

 アラブ首長国連邦(UAE)のアブダビに開設されたルーブル美術館の別館は2016年、歴史的価値のある遺物5点を800万ユーロ(現在のレートで約10億円)で購入した。その中には、ピンク色の花こう岩に古代エジプトのファラオ(王)、ツタンカーメン(Tutankhamun)の姿が彫られた希少な石碑が含まれていた。

 仏当局はこの売買をめぐり、18年7月に捜査を開始した。

 仏週刊紙カナール・アンシェネ(Canard Enchaine)によると、マルティネズ前館長は、これら遺物の来歴証明書が偽物だと知りながら、見て見ぬふりをした疑いが持たれている。事件には複数の美術専門家が関与しているという。

 司法筋は前館長が「偽の認定を行い、不法に取得された美術品の来歴を隠蔽し」詐欺を共謀したとしている。

 同前館長は現在、美術品など文化財の不正取引取り締まり分野での国際協力における、仏外務省の代表を務めている。

 前館長の代理人弁護士はAFPに、「ジャンリュック・マルティネズ氏は本件について、最も強い言葉で異議を唱える」と述べた。

 仏捜査当局は、2010年代初めのアラブの春のさなか、エジプトをはじめ中東諸国から多数の考古学的遺物が略奪され、前の所有者について詮索しない美術商や博物館などに売却されたとみている。

 今年3月には、問題の石碑などの売買を仲介したドイツ系レバノン人の美術商の男が独ハンブルク(Hamburg)で拘束され、仏当局に引き渡されていた。

 カナール・アンシェネ紙は、フランス人エジプト学者マルク・ガボルド(Marc Gabolde)氏がツタンカーメンの石碑の来歴に疑念があることをルーブル関係者に伝えたが、返事はなかったと伝えている。

 マルティネズ氏は13~21年にルーブルの館長を務めていた。(c)AFP/Murielle KASPRZAK and Joseph SCHMID