【5月25日 東方新報】コロナ禍が始まる前、中国人の訪日観光客は年々増え、2019年には959万人に達していた。彼らは日本社会の清潔さやサービスの良さに感心する一方、「ある光景」にも驚いた。道路工事で歩行者を誘導する警備員やタクシー運転手などで一見して高齢者が多いことに、「日本は豊かな国なのに、何歳まで働かないといけないんだ?」という感想を抱いている。

 中国では法律で定められた定年は男性が60歳、専門職の女性が55歳、一般職の女性が50歳。定年と同時に年金が支給され、生涯受け取れる。都市部の就労者だった人が受け取る年金は、2020年で平均月額約2900元(約5万5298円)。同年の都市部の平均可処分所得は月額3652元(約7万円)なので、ぜいたくをしなければ生活できる水準と言える。地域の賃金水準によって年金額も異なるので、北京市や上海市といった大都市は、受給額もより多くなる。

 中国では定年後もフルタイムで働く人は少数派だ。銀行マンやエンジニアなど専門職だった人は知人が経営する企業でパート的に働き、それ以外の人も親族や友人、そのまた知り合いの営む会社で週に数日、事務手伝いをするといった働き方が多い。

 現在の中国の高齢者は若い時に勤め先から社宅をあてがわれた人が多い。定年前に安く払い下げを受けてローンのない生活を送っているか、それを転売して利益を得てさらに別のマンションに住んでいる。また、「貯金好きの日本人、投資好きの中国人」と言われるように中国人は株や不動産投資をする人が多く、ギャンブル的な投資をしなければ中国の経済成長に乗ってそこそこの副収入を得ている。コロナ禍以前なら、中流クラスの高齢夫婦で年に1回は海外旅行を楽しむのが珍しくなかった。

 もちろん、「バラ色の老後」を送る人ばかりではない。特に農村部は深刻だ。中国の年金制度は都市と農村で大きく分かれており、農村での年金は月額200元(約3813円)など、都市の10分の1程度という地域が大半。50歳を過ぎても都会で出稼ぎ労働者として働いている人も多い。

 都市部においても、定年前の収入が低かったり仕事が安定しなかったりした人の年金額は少なく、蓄えもないため、定年後もフルタイムで働く人は増えている。中国の労働法規は定年後の労使契約について不十分な点が多く、勤務中にけがをしても労災が適用されないことが問題にもなっている。

 中国では早ければ今年から人口減少が始まり、今後は急速な高齢化が予想されている。中国社会科学院法学研究所社会法室の王天玉(Wang Tianyu)副主任は「社会の高齢化に伴い、年金受給額も今後は逼迫(ひっぱく)する恐れがある。銀髪(高齢者の意味)労働者が増えていくのは確実で、彼らの権利保護のため早急な法整備が必要だ」と指摘している。(c)東方新報/AFPBB News