【5月28日 AFP】新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)により、学校が遠隔授業への切り替えを余儀なくされた際、米首都ワシントン近郊の理科教師、レベッカ・ブッシュウェー(Rebecca Bushway)さんは生徒たちに難しい課題を与えた──水道水から有害金属の鉛を取り除く、蛇口取り付け型の安価なフィルターの設計と開発だ。

 生徒たちのチームは、3D印刷技術と高校レベルの化学の知識を駆使して課題に取り組み、このほど実用試作品を作り上げた。縦7.5センチの生分解性プラスチック製フィルターケースだ。ゆくゆくは、この鉛フィルターを1個1ドル(約130円)で販売したいと考えている。

 メリーランド州郊外にあるバリー中・高等学校(Barrie Middle and Upper School)でAFPの取材に応じたブッシュウェーさんは、「『ここには3Dプリンターが複数ある。(それを使って)こんな物を作ってみたらどうだろう?』と、ふと思った」と説明する。

 米国では、最大1000万世帯の水道水の供給にいまだ鉛管が使われている。小児期の鉛への暴露は特に有害な影響が懸念される。

■巧妙な仕掛け

 ブッシュウェーさんのアイデアは、汚染土壌修復と同じ化学反応を用いたものだ。水に溶け込んだ鉛とリン酸カルシウムの粉末を反応させ、リン酸鉛と無害な遊離カルシウムに変化させる。このリン酸鉛をフィルターで捕らえる。

 フィルターには他にも巧妙な仕掛けが施されている。リン酸カルシウムの下にヨウ化カリウムを置いたことだ。リン酸カルシウムが使い尽くされると、水に溶けた鉛が下層のヨウ化カリウムと反応し、水が黄色く濁る。これがフィルター交換のサインになる。

 生徒の一人は、数か月かけて3Dプリンターでフィルターケースを設計し、何度も試作を重ねた。「パズルのように問題を解く必要があり、やりがいがあった」と話す。

 今回の開発についてブッシュウェーさんは、隙間市場があるとみている。

 同様に鉛を除去する装置として「逆浸透システム」があるが、導入には数万~数十万円の費用がかかる。一方、より安価な炭素ブロックフィルターは20ドル(約2500円)程度だが、数か月ごとの交換が必要だ。チームが開発したフィルターはこれよりも交換頻度が低い。

「生徒たちのことをとても誇りに思っています」と言うブッシュウェーさん。チームは企業と協力して設計を完成させ、大量生産にこぎ着けたいと意気込んでいる。(c)AFP/Issam AHMED