■恣意的に選別

 流出した名簿には、収監された人の名前、生年月日、民族、ID番号、罪状、住所、刑期、刑務所の詳細が記されている。AFPはデータベースの信ぴょう性を独自に検証できていないが、親族・知人が名簿に掲載されていたという在外ウイグル人5人に取材した。

 データベースを見ると、各町村で数百人が拘束されおり、一世帯だけで何人も拘束された事例も少なくない。

 英シェフィールド大学(University of Sheffield)の講師で東アジア研究が専門のデービッド・トービン(David Tobin)氏は、「対象を絞ったテロ取り締まりではない」と指摘する。「各戸をしらみつぶしに回って、大勢を連れ去っている。恣意(しい)的に選んだ共同体を標的とし、自治区全体に分散しているのは明らかだ」

 罪状は「社会秩序を乱す目的で集団を組織した」「過激主義を扇動した」「因縁をつけてトラブルを引き起こした」など、さまざまだ。

 政府統計によると、新疆ウイグル自治区の裁判所で判決を受けた人は、2014年には約2万1000人だったが、2018年には13万3000人以上に増加した。

 罪に問われなかったウイグル人の多くは、自治区各地の「再教育キャンプ」に送られた。中国政府が「職業訓練センター」と呼ぶこれらの施設では、強制労働、政治的洗脳、拷問、強制不妊手術が行われている証拠があると、外国政府や人権団体は指摘している。

 米国や西側の政治家は、中国政府のウイグル人に対する扱いを「ジェノサイド(集団殺害)」だと非難している。ミチェル・バチェレ(Michelle Bachelet)国連人権高等弁務官は今月訪中し、新疆ウイグル自治区も訪れる予定だ。だが、中国の人権侵害の疑いに関する独立調査と呼ぶにはほど遠いだろうと活動家は警告する。

■すべての家で誰かが…

 2017年に中国政府がイスラム過激主義への取り締まりを強化する「厳打」キャンペーンを強化して以降、5年以上の実刑判決の割合は3倍近く増加した。非公開裁判が大半を占めている。

 ノルウェー在住のウイグル人活動家アブドゥエリ・アユプ(Abduweli Ayup)氏は、流出した名簿で約30人の親族や近隣住民の名前を確認したとAFPに語った。

「父の故郷のオグサク(Oghusaq)や母の故郷オパル(Opal)では、すべての家で誰かが拘束されたことが分かる」

 ほとんどは商人や読み書きのできない農民だという。「いとこは、ただの農民だ。『テロ』という単語を読むことも、意味を理解することもできないだろう」

 AFPは、警察のデータベースから流出したとされる別の名簿も確認した。主にカシュガル(Kashgar)県とアクス県で2008~15年に拘束されたウイグル人1万8000人が特定されていた。

 中国政府は、新疆ウイグル自治区におけるウイグル人らイスラム教少数民族の迫害をかたくなに否定している。それどころか、ウイグル人への対応は過激主義に対する正当な対応だと主張し、貧困地域の経済再生に数十億ドルを投じたと反論している。

 流出した名簿についてのAFPの質問に対し中国外務省は、「新疆に関して一部組織や個人が捏造(ねつぞう)したうそに、われわれはすでに反論した」「新疆の社会は調和が取れ、安定している。あらゆる少数民族がさまざまな権利を十分に享受している」と回答した。(c)AFP/Laurie Chen with Eylul Deniz Yasar in Istanbul