【5月18日 AFP】ここが戦場だと分かっているのか──。ロシアの侵攻を受けるウクライナ東部の前線に位置するリシチャンスク(Lysychansk)で、警官のビクトル・レフチェンコ(Viktor Levchenko)さん(33)は、退避を拒否するアンジェリーナ・アバクモワ(Angelina Abakumova)さん(30)を前にしびれを切らした。

 市内の建物には、ロシア軍が放った砲弾がまた降り注ぎ始めていた。

 軍服とヘルメットで身を固めたレフチェンコさんは、装甲トラックに乗りより安全な地域に退避するよう、2児を連れた母親のアバクモワさんの説得に努めていた。アバクモワさんは過去1か月、真っ暗な地下壕(ごう)で暮らしてきた。

「子どもと一緒にいまだにこんなところで何をしているんだ」と、レフチェンコさんは大きな声で迫った。「ここが戦場だと分かっているのか」

 アバクモワさんは、無言でうなずきはしたものの、一歩も引かない様子だ。レフチェンコさんはアバクモワさんに厳しい目を向け、親子ともどもすぐに命を落としかねないと警告した。

 さらに、アバクモワさんが前線にとどまっていることは、ウクライナの戦争努力全体にも悪影響を与えていると言い募った。ウクライナ軍が市民防衛に力を振り向けねばならず、ロシア軍との戦闘に集中できなくなるからだ。

 ここまで言って、レフチェンコさんはこの日の説得を断念した。「あすまた来る。身の回りの品をまとめて準備を整えておくように。子どもたちを安全な場所に避難させなければならない」と憤然と言った。

 アバクモワさんは地下壕に戻りながら、「考えを変えるつもりはない」とささやいた。「今ここは危険だ。ただ、状況は変わる。今度は向こうが危険になる。行ったり来たりすることに何の意味があるというのか」