【5月13日 AFP】ウクライナ南部ザポリージャ(Zaporizhzhia)市の軍の病院。ファラド・アリシャク(Farad Ali-Shakh)医師は2か月以上、寝る間も惜しみウクライナ兵と市民を治療してきた。捕虜交換の対象になるかもしれないためロシア兵の治療をすることもあるが、気乗りはしない。

 病院に住んでいるようなものだと、アリシャク氏。ザポリージャは前線から数十キロしか離れておらず、夜になると遠くで爆発音が聞こえることもある。毎日20時間働き、最大20人の手術を次々と行う。

 ほぼ切断され、皮一枚でつながっている脚の写真。

「ここではよくある」とアリシャク氏は話す。「血管をつなぎ、皮膚を再び接着することができた」

 別の写真には、もげそうな腕が写っている。この患者も治療ができたと落ち着いた声で説明する。

 こうした恐ろしい傷を治療し続けなければならないことによる精神的影響はあるかと尋ねると、アリシャク氏は肩をすくめこう言った。「私たちはこのような傷に対処できるよう訓練を受けている。厳しい仕事だが、国を支えている」

「ロシア兵さえも治療する。すべきではないかもしれない。放置して、この国の肥やしにすればいいのかも」

 ロシア兵の治療は「モチベーションに欠ける」と認める。「しかし、私たちが回復を助ければ、(ロシア軍の捕虜になっている)ウクライナ兵と交換できる」

 病院の責任者ビクトル・ピサンコ(Viktor Pyssanko)少佐は、「けだもの」の治療に限られた物資を使わなければいけないことにため息をつく。

 ロシア兵はプロパガンダ漬けにされた無分別な若者だと指摘。ウクライナを解放したいと言いながら、「できるだけ多くのウクライナ人を殺したい」と主張するという。

 それでも、この病院では、「ウクライナ兵と交換すること」だけを目標に、できるだけ多くのロシア兵の命を救うと語った。

 ウクライナ侵攻開始以来、捕虜交換は何度か行われている。

 6日にはウクライナ兵28人と民間人13人が解放された。うち11人が女性、1人が聖職者だった。ウクライナ政府は、交換したロシア兵捕虜の数を公開していない。

 ザポリージャの私立病院に4月上旬、負傷したロシア兵3人が搬送されてきた。

 この病院で働くワシリー医師によると、3人は常に監視下に置かれ、3週間入院し、4月末にウクライナ当局に引き渡された。その後、兵士らがどうなったかは知らないという。

「彼らはひどく落ち込んでいて、攻撃的ではなかった。おびえていた」「だから、軽蔑の念はわかなかった」

 同医師によると、医師たちはよく、ロシア兵を痛めつけてやろうというようなブラックジョークを交わしている。「だが、実際は職業倫理を守っている」と話す。

 ロシア兵は「私たちの敵だ。でも、ベッドに横たわる彼らを絞め殺したいと思ったことはない」と語る。「そう思うようなら、医師としては働けない」 (c)AFP/Joris Fioriti with Joshua Melvin