【5月14日 AFP】童顔の10代の青年は、バギーなショーツでスケートボードを走らせ、爆撃されたハンバーガー店の前を通り過ぎた。平和広場(Peace Square)に到着したまさにその時、空襲警報が鳴り響いた。

 ウクライナ東部ドネツク(Donetsk)州の事実上の州都、クラマトルスク(Kramatorsk)。ロシアとの戦闘の前線となってしまった街の中心部にある広場には、全く人影がない。ここで、ロマン・コバレンコ(Roman Kovalenko)さん(18)はトリックを試みる。

 夕空を白い煙の跡が横切る。クラマトルスク周辺に向かって、多連装ロケット砲が発射された証しだ。

 だが、コバレンコさんは、無敵だという思いと確信の持てなさが入りじった奇妙な感覚をボードの上で感じている。空襲警報で眠れない夜は、「一方では悲しいのですが、もう一方では特別な雰囲気があります」

「物悲しい気分になります。周りに誰もいないので」とコバレンコさん。「でも、外出禁止令の前にボードに乗って一人で街に出ると、自分がストリートの王様になったように感じます」

■「恐れる時はまだ来ていない」

 ウクライナ東部で何年も続いていた親ロシア派勢力の反乱が、第2次世界大戦(World War II)後の欧州で最悪の紛争へと拡大する前、工業都市のクラマトルスクには30万人の住民がいた。

 2014年に東部ドンバス(Donbas)地方の最大都市ドネツクが親ロシア派勢力に制圧されると、ウクライナ政府の指導者らは北に約80キロ離れたクラマトルスクに行政の中心地を移さざるを得なかった。

 コバレンコさんは無人の通りをスケートボードで走りながら、ロシアの侵攻によるクラマトルスクの荒廃を目撃してきた。「他に何もすることがないのです」と肩をすくめる。「友達はみんな、国内のあちこちへ行ってしまいました。退屈です」

 友人たちと一緒に西部へ避難せず、兵士たちとここに残っていることについては、理由をうまく説明できないでいる。「もちろん友達と遊びに出かけたいですが、今は無理です」

 コバレンコさんは、家庭の事情により母親と二人で暮らしている。金銭的な問題をほのめかしたが、すぐに、他の人はもっと大きな問題を抱えていると付け加えた。

「恐れる時はまだ来ていません」とコバレンコさんは言う。「生まれつき運命論者なのです。自分の運命を受け入れています」

 頭上のスピーカーからまた空襲警報が鳴り出したが「警報が鳴っても、80%は何も起きません」と少しも動じる様子は見せない。

 ただ少し間をおいてから、5発中1発が命中するのというのはあまりいいこととは言えないと、皮肉交じりの笑顔で語った。(c)AFP/Dmitry ZAKS